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怪屋の妖火(1)

时间: 2023-10-07    进入日语论坛
核心提示:怪屋の妖火(ようか)神谷はほとんどもう気力が尽きていた。だが、彼は節穴から眼をはなすことができなかった。「嫁おどし」の老婆
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怪屋の妖火(ようか)


神谷はほとんどもう気力が尽きていた。だが、彼は節穴から眼をはなすことができなかった。「嫁おどし」の老婆の顔に般若(はんにゃ)の面がくっついてしまったように、彼の顔は板壁に密着して離れなかった。
怪人恩田は、間もなく元気を回復して、舌なめずりをしながら起き上がった。うす黒い顔がひん曲がって、ゾッとするような笑いが浮かんでいる。彼はおそらく、天下晴れて、この可憐(かれん)餌食(えじき)復讐(ふくしゅう)をすることができるのを、喜んでいるのだ。
弘子はと見ると、ああ、幸か不幸か、彼女はまだ失神もしないで、真底から恐怖に耐えぬまなざしで、恩田の方を見つめている。
怪物は、両眼の燐光(りんこう)を燃え立たせ、歯をむき出して、ジリジリと彼女の方へ進んできた。
ああ、それから三十分ほどのあいだ、神谷は何を見、何を聞いたのであろうか。地獄の中の地獄であった。あらゆる恐ろしいもの、あらゆる醜いもの、あらゆる色彩、あらゆる動き、あらゆる音響が、彼の脳髄を痴呆(ちほう)にし、彼の眼を(めしい)にし、彼の耳を耳なえにした。
そして最後に、血に狂った怪人恩田が、激情の余波のやり場もなく、(おど)り狂うようにして眼界を消え去ってしまうと、あとには人間の形態を失ったギラギラした色彩が乱れ散っていた。一人の女性の魂が、かつて類例もない苦悩の中に昇天したのだ。かくして神谷は、その恋人の魂と、同時に肉体をさえも、まったくこの世から失ってしまったのである。
彼はクナクナと密室の床に倒れ伏したまま、長い長いあいだ、死人のように動かなかった。からだじゅうに脂汗を流し、もみくたになった紙屑(かみくず)のように動かなかった。だが、やっとして、彼の肩が波うちはじめた。虫の音ほどのすすり泣きが聞こえはじめた。そして、徐々に徐々にその声が高まり、しまいには、彼は身もだえをして、小児のように泣きわめくのであった。
いつの間にか夕闇(ゆうやみ)があたりをこめ、たださえ暗い密室は文目(あやめ)もわかぬ闇となっていた。その暗黒に包まれたまま、彼の泣き声はいつまでもつづいていた。
ふと気がつくと、誰かしら彼を声高く呼んでいるものがあった。その上に、暗闇とのみ思っていた密室に、どこからか、一条の赤い光が射している。彼は反射的にハッと身構えをしながら、声のする方を振り向いた。
「おいおい、君は何を泣いているんじゃ。何がそんなに悲しいのじゃ」
声と共に、その声の主の眼と鼻とが、四角にくぎられて宙に浮いているのが見えた。
恩田の父親だ。入口の板戸に、小さな四角の(のぞ)き穴がこしらえてあって、彼は今その(ふた)をひらいて、ロウソクをかざしながら、密室の中を覗きこんでいるのだ。神谷は、じっと老人の顔を見返しながら、ひとことも物を言わなかった。何を言っていいのかわからなかった。口をきけば、みじめな(ふる)え声になりそうだった。そして、何かしら(おさ)えつけるように、生命の不安が感じられて仕方がなかった。
「おや、君のその顔はどうしたのだ」
老人はロウソクの光に神谷の面変(おもがわ)りした顔を認めたのだ。
「ハハア、するとなんだな。君は、あれを知っているんだな。だが、どうして? ああ、そうだ。壁の板に隙間(すきま)があったんだな。そこから、君はあれを見たんだろう。それに違いない。おい、君、見たのか見ないのか」
だが神谷は答えなかった。答えずとも彼の表情がすべてを語っている。
「フン、見たんだな。見たとすると、気の毒だが、君は永久にここから出すわけにはいかぬ。いいか。なぜ出せぬか、そのくらいのことは説明せんでもわかるじゃろう。観念したまえ。ハハハハハ」
そして、パタンと無慈悲に閉まる覗き穴の(ふた)、老人の立ち去るけはい、室内は元の暗闇にかえった。
老人は、息子(むすこ)の殺人罪を目撃された上は、生かしておけないというのだ。今にも、あの人間(ひょう)の息子を彼の密室にさしむけて、弘子同様の目にあわせるか、(ある)いは老人の銃口(じゅうこう)が、覗き穴から首を出して、彼を(ねら)いうちにするか。そうでなくても、このままほうっておかれたら、やがて()え死にをしてしまうに違いない。
逃げ出そうにも、この厚い板壁、頑丈(がんじょう)な板戸、道具とてない一人の力で、どう破ることができよう。
ああ、とんでもないことをした。たとえ恋人を救うためであろうとも、わが力も計らず、人にも告げず、単身この魔境へ踏み込んだのは取り返しのつかぬ失策であった。()ず警察へ告げるべきであった。そして有力な助勢を得て、弘子の救助に向かうべきであった。
だが、それはもう取り返しのつかぬ繰り言だ。ただこの上は、(かな)わぬまでも、この密室を脱け出す方法を考えなければならぬ。そして、彼らの悪事を警察に訴え、弘子の(かたき)を討たねばならぬ。これが恋人へのせめてもの心づくしだ。このまま神谷までが死んでしまったのでは、彼らの悪事は誰知るものもなく、あの恐るべき半獣半人の怪物は、永久に罰せられる時がない。それではあまりに不合理だ。彼は当然の処罰を受けねばならぬ。どんなにしてでも、一度ここを脱出して、恋人の無残な死をつぐなわなければならぬ。
しかし、いかなる手段で? ああ、いかなる手段で、この密室を脱出したらいいのだろう。
そんなことが果たして可能であろうか。

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