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大空の爆笑(3)_人豹(双语)_江户川乱步_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示: ちょうどそのとき、又しても一隊の警察官が、木戸口からなだれ込んできた。「おお、明智君、奥さんは大丈夫か」先頭に立った恒
(单词翻译:双击或拖选)

 ちょうどそのとき、又しても一隊の警察官が、木戸口からなだれ込んできた。
「おお、明智君、奥さんは大丈夫か」
先頭に立った恒川警部が、()ずそれを尋ねた。
「ウン、やっと間に合った」
明智は舞台の一方を(あご)でしゃくって見せた。そこには、曲馬団の人たちの手で、(おり)から助け出された文代夫人が、まだ意識を失ったまま、座蒲団(ざぶとん)を積みかさねた上にグッタリとなっていた。
「だが、残念なことに、犯人の一人が自殺してしまった」
「ああ、そこに倒れている……するとあれが恩田のおやじだね」
「そうだよ。猛獣使いに化けていたんだ」
「で、息子(むすこ)の方は?」
「屋根の上へ逃げ出した。あれを見たまえ」
明智が指さす大テントの天井には、右往左往する捕物(とりもの)の人々が、異様な影絵となって入り乱れていた。
「そとへ出てみよう」
明智と恒川警部と新来の[#「新来の」は底本では「新米の」]警官たちとは、大急ぎで木戸口を出ると、見世物小屋のうしろの広場へ()けつけた。そこは、先に配置された警官や、曲馬団員や、帰りそびれた見物たちで、黒山の人だかりであった。
明智たちは、それらの群集のうしろの小高い場所に立って、テントの屋根の斜面上での、(はげ)しい捕物を監視した。
まっ黒な背広を着た「人間(ひょう)」は、彼の本性の四つん()いになって、広いテントの白地の上を、縦横無尽に()ねまわっていた。だが、追手(おって)の中には、野獣にも負けぬ軽業(かるわざ)の名手が、二人も三人もまじっている。その上、逃げるのは一人、追っ()けるのは十人に近い人数だ。さすがの「人間豹」も徐々に徐々に、屋根の隅へと追いつめられて行った。
「いよいよあいつも運の尽きだね。飛び降りるか、でなきゃあ……」
恒川警部がそんなことをつぶやいた時、まるで言い当てでもしたように、空の黒豹は、屋根の端からすばらしい跳躍をしたのである。
四つん這いの黒いからだが、尺とり虫のように縮んだかと思うと、やにわにサッと延びて、空中に見事な弧を描いた。
それを見ると、地上の群集は「ワーッ」と叫んで、逃げ足立ったが、不思議なことに、いつまでたっても、黒豹(くろひょう)は墜落してこなかった。
「アッ、風船だ。風船へ逃げた」
誰かのどなり声に、人々は又一斉(いっせい)に空を見上げた。すると、これはどうだ。逃げる場所もあろうに、「人間豹」はアド・バルーンの綱にすがりついて、屋根のそとの空中にぶら下がっていたのである。
広告風船は、風にゆらめきながら、銀色の巨体を、(はる)かの空に浮かべていた。風船の下には「猛獣大格闘……Z曲馬団」の紅文字が、ヒラヒラとひらめいて、そこからスーッと流れた一条の綱が、ちょうど明智たちの立っている広場の片隅、風船昇降用のロクロまでつづいていた。
「ロクロを()け、ロクロを捲け」
人々は叫びながら、ロクロに()け寄って、三人四人五人と力を合わせ、ヨイトマケ、ヨイトマケ、広告風船の綱を捲きとりはじめた。
あわれ稀代(きだい)の殺人魔「人間豹」も、もはやのがれるすべはなかった。ロクロの廻転(かいてん)につれて風船の綱はみるみる縮まって行く。そして結局風船が地上におろされたとき、「人間豹」も逮捕の運命をまぬがれることはできないのだ。この大捕物の大団円も、もはや五分、三分の後に迫っていた。
だが、綱につかまった「人間豹」は、(あきら)めわるく上へ上へと昇って行く。ロクロが一尺捲きとれば、彼も一尺昇るのだ。そして、巨大な風船が、テントの屋根とすれすれまで引きおろされた時にも、黒豹は依然として元の空中にただよっていた。すでに「Z曲馬団」の四文字を昇りつくし「大格闘」の大の字のあたりにしがみついていた。
「オーイ、むだな骨折りをさせるな、早く降りてこい」
地上の警官たちが業をにやして、空中の犯人に呼びかけた。
「ワハハハハハ、諸君、君たちこそむだ骨折りはよしたまえ」
空中からの応答が、風に吹き飛ばされながら、かすかに聞こえてきた。
「ああ、明智君、恒川君もそこにいるんだね。ご苦労さま。だが、君たちは又むだ骨折りをするばかりだぜ」
「人間豹」は赤い「大」の字の前にぶら下がって、傍若無人の憎まれ口を(たた)いた。
「馬鹿野郎、文句はあとでゆっくり聞いてやる。早く降りてこおい。往生ぎわがわるいぞう」
警官が負けずに応酬した。
「アハハハハハ、君たちおれをつかまえた気でいるのかい。ハハハハハ、こいつはお笑い草だ。なぜといってね、おれは決してつかまらないからな」
叫ぶかと思うと、空中の恩田の右手にキラリと光るものがあった。大型ナイフだ。そのナイフが彼の腰のあたりの綱の上を(はげ)しく左右に動くよと見る間に、たちまち綱はプッツリと切断された。切断されるが早いか、今までロクロと数人の力とで地上に引きつけられていた風船は、まるで鉄砲玉のように恐ろしい早さで天空に舞い上がって行った。
「ワハハハハハ明智君、あばよ。恒川君、あばよ。ワハハハハハ」

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