鉄格子
五つの懐中電灯に追われて、逃げていく四十面相のむこうに、トンネルのような、ほら穴の口がひらいていました。石をくんで、材木でささえた、鉱山の横あなのようなものです。
四十面相は、ワハハハと笑いつづけながら、そのトンネルの中へ、とびこんでいきました。ひょっとしたら、古井戸とはべつに、こちらにも、出入り口があるのではないでしょうか。
いずれにしても、はやく追っかけてつかまえなくてはなりません。
五人の警官は、四十面相のあとから、そのトンネルへかけこみました。ふたりならんで走れるほどのトンネルです。
警官たちは、おりかさなるようにして、その中を、かけていきましたが、とつぜんむこうを走っていく四十面相の笑い声が、おそろしく高くなり、くるッとこちらをふりむきました。
そのときです。警官たちの頭の上で、ガラガラッという音がしたかとおもうと、トンネルの天井から、鉄格子が落ちてきて、ガチャンと地面にぶつかり、トンネルをふさいでしまいました。
さきにたっていた警官は、その鉄格子に、おしつぶされそうになって、あやうく身をかわしたのです。
こうして、五人の警官と四十面相のあいだは、頑丈な鉄格子でへだてられてしまったので、もう追っかけることができなくなりました。警官たちは、鉄格子にとりついて、力まかせに上にあげようとしましたが、びくとも動くものではありません。
鉄格子のむこうでは、シャツ一枚の上山さんに化けた四十面相が、五本の指を、鼻のさきでヘラヘラやって、こちらをからかっています。
「ワハハハハ……、どうだい。四十面相のおくの手を見たか。おれはいつでも、けっしてつかまらないだけの用意がしてあるんだ。きみたちは、はやく古井戸へもどったほうがいいだろう。ぐずぐずしていると、まだまだ恐ろしいことがおこるかもしれないぜ。」
警官たちは、このまま、のめのめと、ひきかえすわけにはいきません。明智探偵に相談しようとして、あたりを見まわしましたが、どこにも、そのすがたが見えません。すがたといっても、夜光の首だけなのですが、それがどこかへ消えてしまって、うしろの洞窟の中にも見えないのです。
「ワハハハハ……。」
そのとき、四十面相の笑い声が、また、いちだんと高くなりました。
すると、それがあいずででもあったように、ふたたび頭の上に、ガラガラッという音がして、ガチャンと、鉄格子が落ちてきました。こんどは、警官たちのずっとうしろのほうで落ちたのです。
警官たちは、おどろいて、そのほうへかけだしていって、鉄格子をゆさぶりました。びくとも動くものではありません。
こうして、前とうしろに鉄格子が落ちたので、警官たちは、それにはさまれて、どちらへもいけぬようになってしまいました。とつぜん、トンネルの中に牢屋ができて、その中へとじこめられたようなものです。
「ワハハハ、……だから、さっき、はやくお帰りなさいといったでしょう。ぼくのいうことをきかなかったから、そんなめにあったのですよ。ワハハハハ……。では、ぼくは、こちらの出口から、しっけいします。……あばよ。」
四十面相は、そういいすてて、トンネルのおくへ、すがたを消してしまいました。