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薤露行: 二 鏡(3)

时间: 2021-01-10    进入日语论坛
核心提示: シャロットの女の織るは不断のである。草むらの萌草(もえぐさ)の厚く茂れる底に、釣鐘の花の沈める様を織るときは、花の影のい
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 シャロットの女の織るは不断のである。草むらの萌草(もえぐさ)の厚く茂れる底に、釣鐘の花の沈める様を織るときは、花の影のいつ浮くべしとも見えぬほどの濃き色である。うな原のうねりの中に、雪と散る(なみ)の花を浮かすときは、底知れぬ深さを一枚の薄きに畳む。あるときは黒き()に、燃ゆる(ほのお)の色にて十字架を描く。濁世(じょくせ)にはびこる罪障の風は、すきまなく天下を吹いて、十字を織れる経緯(たてよこ)の目にも入ると覚しく、焔のみはを離れて飛ばんとす。――薄暗き女の部屋は()け落つるかと怪しまれて明るい。
 恋の糸と(まこと)の糸を横縦に梭くぐらせば、手を肩に組み合せて天を仰げるマリヤの姿となる。狂いを(たて)に怒りを(よこ)に、(あられ)ふる木枯(こがらし)の夜を織り明せば、荒野の中に白き(ひげ)飛ぶリアの面影が出る。恥ずかしき(くれない)と恨めしき鉄色をより合せては、逢うて絶えたる人の心を読むべく、温和(おとな)しき黄と思い上がれる紫を(かわ)(がわ)るに畳めば、魔に誘われし乙女(おとめ)の、(われ)(がお)に高ぶれる(さま)を写す。長き(たもと)に雲の如くにまつわるは人に言えぬ(ねがい)の糸の乱れなるべし。
 シャロットの女は(まなこ)深く額広く、唇さえも女には似で薄からず。夏の日の(のぼ)りてより、刻を盛る砂時計の(ここの)たび落ち尽したれば、今ははや(ひる)過ぎなるべし。窓を射る日の(まば)ゆきまで明かなるに、室のうちは夏知らぬ洞窟(どうくつ)の如くに暗い。輝けるは五尺に余る鉄の鏡と、肩に漂う長き髪のみ。右手(めて)より投げたる()左手(ゆんで)に受けて、女はふと鏡の(うち)を見る。()ぎ澄したる(つるぎ)よりも寒き光の、(いつも)ながらうぶ毛の末をも照すよと思ううちに――底事(なにごと)ぞ!音なくて()と曇るは霧か、鏡の(おもて)は巨人の息をまともに浴びたる如く光を失う。今まで見えたシャロットの岸に連なる柳も隠れる。柳の中を流るるシャロットの河も消える。河に沿うて()きつ来りつする人影は無論ささぬ。――梭の音ははたとやんで、女の(まぶた)は黒き(まつげ)と共に(かす)かに(ふる)えた。「凶事か」と叫んで鏡の前に寄るとき、曇は一刷(いっさつ)に晴れて、河も柳も人影も元の如くに(あら)われる。梭は再び動き出す。
 女はやがて世にあるまじき悲しき声にて歌う。
  うつせみの世を、
  うつつに住めば、
  住みうからまし、
  むかしも今も。」
  うつくしき恋、
  うつす鏡に、
  色やうつろう、

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