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薤露行:五 舟(2)

时间: 2021-01-21    进入日语论坛
核心提示:「追い付ける時は既に遅くあった。乗る馬の息の、闇(やみ)押し分けて白く立ち上るを、いやがうえに鞭(むちう)って長き路を一散に
(单词翻译:双击或拖选)

「追い付ける時は既に遅くあった。乗る馬の息の、(やみ)押し分けて白く立ち上るを、いやがうえに(むちう)って長き路を一散に()け通す。黒きもののそれかとも見ゆる影が、二丁ばかり先に現われたる時、われは肺を逆しまにしてランスロットと呼ぶ。黒きものは聞かざる真似(まね)して行く。(かす)かに聞えたるは(くつわ)の音か。怪しきは差して急げる様もなきに容易(たやす)くは追い付かれず。(ようや)くの事(あいだ)一丁ほどに(せま)りたる時、黒きものは夜の中に織り込まれたる如く、ふっと消える。合点(がてん)行かぬわれは(ますます)追う。シャロットの入口に渡したる石橋に、蹄も砕けよと乗り懸けしと思えば、馬は何物にか(つまず)きて前足を折る。()るわれは(たてがみ)をさかに()いて前にのめる。(かつ)と打つは石の上と心得しに、われより先に(たお)れたる人の(よろい)の袖なり」
「あぶない!」と老人は眼の前の事の如くに叫ぶ。
「あぶなきはわが上ならず。われより先に倒れたるランスロットの事なり……」
「倒れたるはランスロットか」と妹は(たま)()ゆるほどの声に、椅子の(はじ)を握る。椅子の足は折れたるにあらず。
「橋の(たもと)の柳の(うち)に、人住むとしも見えぬ庵室(あんしつ)あるを、試みに敲けば、世を(のが)れたる隠士の(きょ)なり。幸いと冷たき人を(かつ)ぎ入るる。(かぶと)を脱げば眼さえ氷りて……」
「薬を掘り、草を煮るは隠士の常なり。ランスロットを(よみがえ)してか」と父は話し半ばに我句を投げ入るる。
「よみ返しはしたれ。よみにある人と(えら)ぶ所はあらず。われに帰りたるランスロットはまことのわれに帰りたるにあらず。魔に襲われて夢に物いう人の如く、あらぬ事のみ口走る。あるときは罪々と叫び、あるときは王妃――ギニヴィア――シャロットという。隠士が心を込むる草の(かお)りも、煮えたる(かしら)には一点の涼気を吹かず。……」
枕辺(まくらべ)にわれあらば」と少女(おとめ)は思う。
一夜(いちや)(のち)たぎりたる脳の漸く平らぎて、静かなる昔の影のちらちらと心に映る頃、ランスロットはわれに去れという。心許さぬ隠士は去るなという。とかくして二日を経たり。三日目の朝、われと隠士の(ねむり)覚めて、病む人の顔色の、今朝(けさ)如何(いかが)あらんと臥所(ふしど)(うかが)えば――()らず。(つるぎ)の先にて古壁に刻み残せる句には罪はわれを追い、われは罪を追うとある」
(のが)れしか」と父は聞き、「いずこへ」と妹はきく。
「いずこと知らば尋ぬる便りもあらん。茫々(ぼうぼう)と吹く夏野の風の限りは知らず。西東日の通う境は(きわ)めがたければ、(ひと)り帰り来ぬ。――隠士はいう、(やまい)怠らで去る。かの人の身は危うし。狂いて走る(かた)はカメロットなるべしと。うつつのうちに口走れる言葉にてそれと察せしと見ゆれど、われは(しか)と、さは思わず」と語り終って(さかずき)に盛る苦き酒を一息に飲み干して(にじ)の如き気を吹く。妹は立ってわが室に入る。

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