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薤露行:五 舟(4)

时间: 2021-01-21    进入日语论坛
核心提示: 今はこれまでの命と思い詰めたるとき、エレーンは父と兄とを枕辺に招きて「わがためにランスロットへの文(ふみ)かきて玉われ」
(单词翻译:双击或拖选)

 今はこれまでの命と思い詰めたるとき、エレーンは父と兄とを枕辺に招きて「わがためにランスロットへの(ふみ)かきて玉われ」という。父は筆と紙を取り出でて、死なんとする人の言の葉を一々に書き付ける。
(あめ)(した)に慕える人は君ひとりなり。君一人のために死ぬるわれを憐れと思え。陽炎(かげろう)燃ゆる黒髪の、長き乱れの土となるとも、胸に彫るランスロットの名は、星変る後の世までも消えじ。愛の炎に染めたる文字の、土水(どすい)の因果を受くる(ことわり)なしと思えば。(まつげ)に宿る露の(たま)に、写ると見れば砕けたる、君の面影の(もろ)くもあるかな。わが命もしかく脆きを、涙あらば(そそ)げ。基督(キリスト)も知る、死ぬるまで清き乙女(おとめ)なり」
 書き終りたる文字は怪しげに乱れて定かならず。年寄の手の(ふる)えたるは、(おい)のためとも(かなしみ)のためとも知れず。
 女またいう。「息絶えて、身の暖かなるうち、右の手にこの(ふみ)を握らせ給え。手も足も冷え尽したる後、ありとある美しき(きぬ)にわれを着飾り給え。隙間(すきま)なく黒き布しき詰めたる小船(こぶね)の中にわれを載せ給え。山に野に白き薔薇(ばら)、白き百合(ゆり)を採り尽して舟に投げ入れ給え。――舟は流し給え」
 かくしてエレーンは眼を眠る。眠りたる眼は開く()なし。父と兄とは唯々(いい)として遺言の(ごと)く、憐れなる少女(おとめ)亡骸(なきがら)を舟に運ぶ。
 古き江に(さざなみ)さえ死して、風吹く事を知らぬ顔に平かである。舟は今緑り()むる陰を離れて中流に()()づる。(かい)(あやつ)るはただ一人、白き髪の白き(ひげ)(おきな)と見ゆ。ゆるく()く水は、物憂げに動いて、一櫂ごとに鉛の如き光りを放つ。舟は波に浮ぶ睡蓮(すいれん)の睡れる中に、音もせず乗り入りては乗り越して行く。(うてな)傾けて舟を通したるあとには、(かろ)()く波足と共にしばらく揺れて花の姿は常の(しずけ)さに帰る。押し分けられた葉の再び浮き上る表には、時ならぬ露が珠を走らす。
 舟は杳然(ようぜん)として何処(いずく)ともなく去る。美しき亡骸(なきがら)と、美しき(きぬ)と、美しき花と、人とも見えぬ一個の翁とを載せて去る。翁は物をもいわぬ。ただ静かなる波の中に長き櫂をくぐらせては、くぐらす。木に彫る人を(むちう)って()たしめたるか、櫂を動かす腕の(ほか)には()きたる所なきが如くに見ゆる。
 と見れば雪よりも白き白鳥が、収めたる翼に、波を裂いて王者の如く悠然(ゆうぜん)と水を練り行く。長き(くび)の高く()したるに、気高き姿はあたりを払って、恐るるもののありとしも見えず。うねる流を傍目(わきめ)もふらず、(へさき)に立って舟を導く。舟はいずくまでもと、鳥の()に裂けたる波の合わぬ()(したが)う。両岸の柳は青い。

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