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薤露行:五 舟(5)

时间: 2021-01-21    进入日语论坛
核心提示: シャロットを過ぐる時、いずくともなく悲しき声が、左の岸より古き水の寂寞(じゃくまく)を破って、動かぬ波の上に響く。「うつ
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 シャロットを過ぐる時、いずくともなく悲しき声が、左の岸より古き水の寂寞(じゃくまく)を破って、動かぬ波の上に響く。「うつせみの世を、……うつつ……に住めば……」絶えたる音はあとを引いて、引きたるはまたしばらくに絶えんとす。聞くものは死せるエレーンと、(とも)に坐る翁のみ。翁は耳さえ借さぬ。ただ長き櫂をくぐらせてはくぐらする。思うに(つんぼ)なるべし。
 空は打ち返したる綿を厚く敷けるが如く重い。流を(はさ)む左右の柳は、一本ごとに緑りをこめて濛々(もうもう)と烟る。娑婆(しゃば)冥府(めいふ)(さかい)に立ちて迷える人のあらば、その人の霊を並べたるがこの気色(けしき)である。()に似たる少女(おとめ)の、舟に乗りて他界へ行くを、立ちならんで送るのでもあろう。
 舟はカメロットの水門に横付けに流れて、はたと留まる。白鳥の影は波に沈んで、岸高く(そばだ)てる楼閣の黒く水に映るのが物凄(ものすご)い。水門は左右に開けて、石階の上にはアーサーとギニヴィアを前に、城中の男女(なんにょ)(ことごと)く集まる。
 エレーンの(しかばね)(すべ)ての屍のうちにて最も美しい。涼しき顔を、雲と乱るる黄金(こがね)の髪に(うず)めて、笑える如く(よこた)わる。肉に付着するあらゆる肉の不浄を(ぬぐ)い去って、霊その物の面影を口鼻(こうび)の間に示せるは朗かにもまた極めて清い。苦しみも、憂いも、恨みも、憤りも――世に(いま)わしきものの(あと)なければ土に帰る人とは見えず。
 王は(おごそ)かなる声にて「何者ぞ」と問う。櫂の手を休めたる老人は(おうし)の如く口を開かぬ。ギニヴィアはつと石階を(くだ)りて、乱るる百合の花の中より、エレーンの右の手に握る(ふみ)を取り上げて何事と封を切る。
 悲しき声はまた水を渡りて、「……うつくしき……恋、色や……うつろう」と細き糸ふって波うたせたる時の如くに人々の耳を貫く。
 読み終りたるギニヴィアは、腰をのして舟の中なるエレーンの額――透き(とお)るエレーンの額に、(ふる)えたる唇をつけつつ「美くしき少女!」という。同時に一滴の熱き涙はエレーンの冷たき頬の上に落つる。
 十三人の騎士は目と目を見合せた。

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