返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 夏目漱石 » 正文

硝子戸の中(18)

时间: 2021-01-30    进入日语论坛
核心提示:十八 私の座敷へ通されたある若い女が、「どうも自分の周囲(まわり)がきちんと片づかないで困りますが、どうしたら宜(よろ)しい
(单词翻译:双击或拖选)

十八


 私の座敷へ通されたある若い女が、「どうも自分の周囲(まわり)がきちんと片づかないで困りますが、どうしたら(よろ)しいものでしょう」と聞いた。
 この女はある親戚の(うち)寄寓(きぐう)しているので、そこが手狭(てぜま)な上に、子供などが蒼蠅(うるさ)いのだろうと思った私の答は、すこぶる簡単であった。
「どこかさっぱりした(うち)を探して下宿でもしたら好いでしょう」
「いえ部屋の事ではないので、頭の中がきちんと片づかないで困るのです」
 私は私の誤解を意識すると同時に、女の意味がまた解らなくなった。それでもう少し進んだ説明を彼女に求めた。
「外からは何でも頭の中に入って来ますが、それが心の中心と折合がつかないのです」
「あなたのいう心の中心とはいったいどんなものですか」
「どんなものと云って、真直(まっすぐ)な直線なのです」
 私はこの女の数学に熱心な事を知っていた。けれども心の中心が直線だという意味は無論私に通じなかった。その上中心とははたして何を意味するのか、それもほとんど不可解であった。女はこう云った。
「物には何でも中心がございましょう」
「それは眼で見る事ができ、尺度(ものさし)で計る事のできる物体についての話でしょう。心にも形があるんですか。そんならその中心というものをここへ出して御覧なさい」
 女は出せるとも出せないとも云わずに、庭の方を見たり、(ひざ)の上で両手を()ったりしていた。
「あなたの直線というのは比喩(たとえ)じゃありませんか。もし比喩なら、(まる)と云っても四角と云っても、つまり同じ事になるのでしょう」
「そうかも知れませんが、形や色が始終(しじゅう)変っているうちに、少しも変らないものが、どうしてもあるのです」
「その変るものと変らないものが、別々だとすると、要するに心が二つある訳になりますが、それで好いのですか。変るものはすなわち変らないものでなければならないはずじゃありませんか」
 こう云った私はまた問題を元に返して女に向った。
「すべて外界のものが頭のなかに入って、すぐ整然と秩序なり段落なりがはっきりするように納まる人は、おそらくないでしょう。失礼ながらあなたの年齢(とし)や教育や学問で、そうきちんと片づけられる訳がありません。もしまたそんな意味でなくって、学問の力を借りずに、徹底的にどさりと納まりをつけたいなら、私のようなものの所へ来ても駄目(だめ)です。坊さんの所へでもいらっしゃい」
 すると女が私の顔を見た。
「私は始めて先生を御見上げ申した時に、先生の心はそういう点で、普通の人以上に(とと)のっていらっしゃるように思いました」
「そんなはずがありません」
「でも私にはそう見えました。内臓の位置までが調(ととの)っていらっしゃるとしか考えられませんでした」
「もし内臓がそれほど具合よく調節されているなら、こんなに始終(しじゅう)病気などはしません」
「私は病気にはなりません」とその時女は突然自分の事を云った。
「それはあなたが私より偉い証拠(しょうこ)です」と私も答えた。
 女は蒲団(ふとん)(すべ)り下りた。そうして、「どうぞ御身体(おからだ)御大切(ごたいせつ)に」と云って帰って行った。

轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%

热门TAG: