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硝子戸の中(28)

时间: 2021-01-30    进入日语论坛
核心提示:二十八 ある人が私の家(うち)の猫を見て、「これは何代目の猫ですか」と訊(き)いた時、私は何気なく「二代目です」と答えたが、
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二十八


 ある人が私の(うち)の猫を見て、「これは何代目の猫ですか」と()いた時、私は何気なく「二代目です」と答えたが、あとで考えると、二代目はもう通り越して、その(じつ)三代目になっていた。
 初代は宿なしであったにかかわらず、ある意味からして、だいぶ有名になったが、それに引きかえて、二代目の生涯(しょうがい)は、主人にさえ忘れられるくらい、短命だった。私は誰がそれをどこから貰って来たかよく知らない。しかし手の(ひら)に載せれば載せられるような小さい恰好(かっこう)をして、彼がそこいら(じゅう)()い廻っていた当時を、私はまだ記憶している。この可憐な動物は、ある朝家のものが床を()げる時、誤って上から踏み殺してしまった。ぐうという声がしたので、蒲団(ふとん)の下に(もぐ)()んでいる彼をすぐ引き出して、相当の手当(てあて)をしたが、もう間に合わなかった。彼はそれから一日(いちんち)二日(ふつか)してついに死んでしまった。その(あと)へ来たのがすなわち真黒な今の猫である。
 私はこの黒猫を可愛(かわい)がっても(にく)がってもいない。猫の方でも宅中(うちじゅう)のそのそ歩き廻るだけで、別に私の(そば)へ寄りつこうという好意を現わした事がない。
 ある時彼は台所の戸棚(とだな)へ這入って、(なべ)の中へ落ちた。その鍋の中には胡麻(ごま)の油がいっぱいあったので、彼の身体(からだ)はコスメチックでも塗りつけたように光り始めた。彼はその光る身体で私の原稿紙の上に寝たものだから、油がずっと下まで()(とお)って私をずいぶんな目に()わせた。
 去年私の病気をする少し前に、彼は突然皮膚病に(かか)った。顔から額へかけて、毛がだんだん抜けて来る。それをしきりに爪で()くものだから、瘡葢(かさぶた)がぼろぼろ落ちて、(あと)赤裸(あかはだか)になる。私はある日食事中この見苦しい様子を眺めて(いや)な顔をした。
「ああ瘡葢を(こぼ)して、もし小供にでも伝染するといけないから、病院へ連れて行って早く療治をしてやるがいい」
 私は(うち)のものにこういったが、腹の中では、ことによると病気が病気だから全治しまいとも思った。(むか)し私の知っている西洋人が、ある伯爵から好い犬を貰って可愛(かわい)がっていたところ、いつかこんな皮膚病に悩まされ出したので、気の毒だからと云って、医者に頼んで殺して貰った事を、私はよく覚えていたのである。
「クロロフォームか何かで殺してやった方が、かえって苦痛がなくって仕合せだろう」
 私は三四度(さんよたび)同じ言葉を()(かえ)して見たが、猫がまだ私の思う通りにならないうちに、自分の方が病気でどっと寝てしまった。その間私はついに彼を見る機会をもたなかった。自分の苦痛が直接自分を支配するせいか、彼の病気を考える余裕さえ出なかった。
 十月に()って、私はようやく起きた。そうして例のごとく黒い彼を見た。すると不思議な事に、彼の醜い赤裸の皮膚にもとのような黒い毛が()えかかっていた。
「おや(なお)るのかしら」
 私は退屈な病後の眼を絶えず彼の上に注いでいた。すると私の衰弱がだんだん回復するにつれて、彼の毛もだんだん濃くなって来た。それが平生の通りになると、今度は以前より肥え始めた。
 私は自分の病気の経過と彼の病気の経過とを比較して見て、時々そこに何かの因縁(いんねん)があるような暗示を受ける。そうしてすぐその後から馬鹿らしいと思って微笑する。猫の方ではただにやにや鳴くばかりだから、どんな心持でいるのか私にはまるで解らない。

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