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草枕 一 (4)

时间: 2021-01-30    进入日语论坛
核心提示: しばらくこの旅中(りょちゅう)に起る出来事と、旅中に出逢(であ)う人間を能の仕組(しくみ)と能役者の所作(しょさ)に見立てたら
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 しばらくこの旅中(りょちゅう)に起る出来事と、旅中に出逢(であ)う人間を能の仕組(しくみ)と能役者の所作(しょさ)に見立てたらどうだろう。まるで人情を()てる訳には行くまいが、根が詩的に出来た旅だから、非人情のやりついでに、なるべく節倹してそこまでは()ぎつけたいものだ。南山(なんざん)幽篁(ゆうこう)とは(たち)の違ったものに相違ないし、また雲雀(ひばり)や菜の花といっしょにする事も出来まいが、なるべくこれに近づけて、近づけ得る限りは同じ観察点から人間を()てみたい。芭蕉(ばしょう)と云う男は枕元(まくらもと)へ馬が尿(いばり)するのをさえ()な事と見立てて発句(ほっく)にした。余もこれから逢う人物を――百姓も、町人も、村役場の書記も、(じい)さんも(ばあ)さんも――ことごとく大自然の点景として描き出されたものと仮定して取こなして見よう。もっとも画中の人物と違って、彼らはおのがじし勝手な真似(まね)をするだろう。しかし普通の小説家のようにその勝手な真似の根本を()ぐって、心理作用に立ち入ったり、人事葛藤(じんじかっとう)詮議立(せんぎだ)てをしては俗になる。動いても構わない。画中の人間が動くと見れば()(つかえ)ない。画中の人物はどう動いても平面以外に出られるものではない。平面以外に飛び出して、立方的に働くと思えばこそ、こっちと衝突したり、利害の交渉が起ったりして面倒になる。面倒になればなるほど美的に見ている(わけ)に行かなくなる。これから逢う人間には超然と遠き上から見物する気で、人情の電気がむやみに双方で起らないようにする。そうすれば相手がいくら働いても、こちらの(ふところ)には容易に飛び込めない訳だから、つまりは()の前へ立って、画中の人物が画面の(うち)をあちらこちらと騒ぎ廻るのを見るのと同じ訳になる。(あいだ)三尺も(へだ)てていれば落ちついて見られる。あぶな()なしに見られる。(ことば)()えて云えば、利害に気を奪われないから、全力を()げて彼らの動作を芸術の方面から観察する事が出来る。余念もなく美か美でないかと鑒識(かんしき)する事が出来る。
 ここまで決心をした時、空があやしくなって来た。煮え切れない雲が、頭の上へ靠垂(もた)(かか)っていたと思ったが、いつのまにか、(くず)()して、四方(しほう)はただ雲の海かと怪しまれる中から、しとしとと春の雨が降り出した。菜の花は()くに通り過して、今は山と山の間を行くのだが、雨の糸が(こまや)かでほとんど霧を(あざむ)くくらいだから、(へだ)たりはどれほどかわからぬ。時々風が来て、高い雲を吹き払うとき、薄黒い山の()が右手に見える事がある。何でも谷一つ隔てて向うが脈の走っている所らしい。左はすぐ山の(すそ)と見える。深く()める雨の奥から松らしいものが、ちょくちょく顔を出す。出すかと思うと、隠れる。雨が動くのか、木が動くのか、夢が動くのか、何となく不思議な心持ちだ。
 路は存外(ぞんがい)広くなって、かつ(たいら)だから、あるくに骨は折れんが、雨具の用意がないので急ぐ。帽子から雨垂(あまだ)れがぽたりぽたりと落つる頃、五六間先きから、鈴の音がして、黒い中から、馬子(まご)がふうとあらわれた。
「ここらに休む所はないかね」
「もう十五丁行くと茶屋がありますよ。だいぶ()れたね」
 まだ十五丁かと、振り向いているうちに、馬子の姿は影画(かげえ)のように雨につつまれて、またふうと消えた。
 (ぬか)のように見えた粒は次第に太く長くなって、今は一筋(ひとすじ)ごとに風に()かれる(さま)までが目に()る。羽織はとくに濡れ(つく)して肌着に()み込んだ水が、身体(からだ)温度(ぬくもり)生暖(なまあたたか)く感ぜられる。気持がわるいから、帽を傾けて、すたすた歩行(ある)く。
 茫々(ぼうぼう)たる薄墨色(うすずみいろ)の世界を、幾条(いくじょう)銀箭(ぎんせん)(なな)めに走るなかを、ひたぶるに濡れて行くわれを、われならぬ人の姿と思えば、詩にもなる、句にも()まれる。有体(ありてい)なる(おの)れを忘れ(つく)して純客観に眼をつくる時、始めてわれは画中の人物として、自然の景物と美しき調和を(たも)つ。ただ降る雨の心苦しくて、踏む足の疲れたるを気に掛ける瞬間に、われはすでに詩中の人にもあらず、画裡(がり)の人にもあらず。依然として市井(しせい)の一豎子(じゅし)に過ぎぬ。雲煙飛動の(おもむき)も眼に()らぬ。落花啼鳥(らっかていちょう)の情けも心に浮ばぬ。蕭々(しょうしょう)として(ひと)春山(しゅんざん)を行く(われ)の、いかに美しきかはなおさらに(かい)せぬ。初めは帽を傾けて歩行(あるい)た。(のち)にはただ足の(こう)のみを見詰めてあるいた。終りには肩をすぼめて、恐る恐る歩行た。雨は満目(まんもく)樹梢(じゅしょう)(うご)かして四方(しほう)より孤客(こかく)(せま)る。非人情がちと強過ぎたようだ。

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