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草枕 二 (2)

时间: 2021-02-07    进入日语论坛
核心提示:「まあ一つ」と婆さんはいつの間まにか刳くり抜き盆の上に茶碗をのせて出す。茶の色の黒く焦こげている底に、一筆ひとふでがきの
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 「まあ一つ」と婆さんはいつのにかり抜き盆の上に茶碗をのせて出す。茶の色の黒くげている底に、一筆ひとふでがきの梅の花が三輪無雑作むぞうさに焼き付けられている。

「御菓子を」と今度は鶏の踏みつけた胡麻(ごま)ねじと微塵棒(みじんぼう)を持ってくる。(ふん)はどこぞに着いておらぬかと(なが)めて見たが、それは箱のなかに取り残されていた。
 婆さんは袖無(そでな)しの上から、(たすき)をかけて、(へっつい)の前へうずくまる。余は(ふところ)から写生帖を取り出して、婆さんの横顔を写しながら、話しをしかける。
「閑静でいいね」
「へえ、御覧の通りの山里(やまざと)で」
(うぐいす)は鳴くかね」
「ええ毎日のように鳴きます。此辺(ここら)は夏も鳴きます」
「聞きたいな。ちっとも聞えないとなお聞きたい」
「あいにく今日(きょう)は――先刻(さっき)の雨でどこぞへ逃げました」
 折りから、竈のうちが、ぱちぱちと鳴って、赤い火が(さっ)と風を起して一尺あまり吹き出す。
「さあ、()あたり。さぞ御寒かろ」と云う。軒端(のきば)を見ると青い煙りが、突き当って(くず)れながらに、(かす)かな(あと)をまだ板庇(いたびさし)にからんでいる。
「ああ、()い心持ちだ、御蔭(おかげ)で生き返った」
「いい具合に雨も晴れました。そら天狗巌(てんぐいわ)が見え出しました」
 逡巡(しゅんじゅん)として曇り勝ちなる春の空を、もどかしとばかりに吹き払う山嵐の、思い切りよく通り抜けた前山(ぜんざん)一角(いっかく)は、未練もなく晴れ尽して、老嫗(ろうう)の指さす(かた)と、あら(けず)りの柱のごとく(そび)えるのが天狗岩だそうだ。
 余はまず天狗巌を(なが)めて、次に婆さんを眺めて、三度目には半々(はんはん)に両方を見比(みくら)べた。画家として余が頭のなかに存在する婆さんの顔は高砂(たかさご)(ばば)と、蘆雪(ろせつ)のかいた山姥(やまうば)のみである。蘆雪の図を見たとき、理想の婆さんは物凄(ものすご)いものだと感じた。紅葉(もみじ)のなかか、寒い月の下に置くべきものと考えた。宝生(ほうしょう)別会能(べつかいのう)を観るに及んで、なるほど老女にもこんな優しい表情があり得るものかと驚ろいた。あの(めん)は定めて名人の刻んだものだろう。惜しい事に作者の名は聞き落したが、老人もこうあらわせば、豊かに、(おだ)やかに、あたたかに見える。金屏(きんびょう)にも、春風(はるかぜ)にも、あるは桜にもあしらって()(つかえ)ない道具である。余は天狗岩よりは、腰をのして、手を(かざ)して、遠く向うを(ゆびさ)している、袖無し姿の婆さんを、春の山路(やまじ)の景物として恰好(かっこう)なものだと考えた。余が写生帖を取り上げて、今しばらくという途端(とたん)に、婆さんの姿勢は崩れた。
 手持無沙汰(てもちぶさた)に写生帖を、火にあてて(かわ)かしながら、
「御婆さん、丈夫そうだね」と(たず)ねた。
「はい。ありがたい事に達者で――針も持ちます、()もうみます、御団子(おだんご)()()きます」
 この御婆さんに石臼(いしうす)()かして見たくなった。しかしそんな注文も出来ぬから、
「ここから那古井(なこい)までは一里()らずだったね」と別な事を聞いて見る。
「はい、二十八丁と申します。旦那(だんな)湯治(とうじ)御越(おこ)しで……」
「込み合わなければ、少し逗留(とうりゅう)しようかと思うが、まあ気が向けばさ」
「いえ、戦争が始まりましてから、(とん)と参るものは御座いません。まるで締め切り同様で御座います」
「妙な事だね。それじゃ()めてくれないかも知れんね」
「いえ、御頼みになればいつでも宿()めます」
「宿屋はたった一軒だったね」
「へえ、志保田(しほだ)さんと御聞きになればすぐわかります。村のものもちで、湯治場だか、隠居所だかわかりません」
「じゃ御客がなくても平気な訳だ」
「旦那は始めてで」
「いや、久しい以前ちょっと行った事がある」

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