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草枕 二 (4)

时间: 2021-02-07    进入日语论坛
核心提示: 余はまた写生帖をあける。この景色は画(え)にもなる、詩にもなる。心のうちに花嫁の姿を浮べて、当時の様を想像して見てしたり
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 余はまた写生帖をあける。この景色は()にもなる、詩にもなる。心のうちに花嫁の姿を浮べて、当時の様を想像して見てしたり顔に、

花の頃を越えてかしこし馬に嫁

と書きつける。不思議な事には衣装(いしょう)も髪も馬も桜もはっきりと目に映じたが、花嫁の顔だけは、どうしても思いつけなかった。しばらくあの顔か、この顔か、と思案しているうちに、ミレーのかいた、オフェリヤの面影(おもかげ)忽然(こつぜん)と出て来て、高島田の下へすぽりとはまった。これは駄目だと、せっかくの図面を早速(さっそく)取り(くず)す。衣装も髪も馬も桜も一瞬間に心の道具立から奇麗(きれい)に立ち退()いたが、オフェリヤの合掌して水の上を流れて行く姿だけは、朦朧(もうろう)と胸の底に残って、棕梠箒(しゅろぼうき)で煙を払うように、さっぱりしなかった。空に尾を()彗星(すいせい)の何となく妙な気になる。
「それじゃ、まあ御免」と源さんが挨拶(あいさつ)する。
「帰りにまた御寄(およ)り。あいにくの降りで七曲(ななまが)りは難義だろ」
「はい、少し骨が折れよ」と源さんは歩行(あるき)出す。源さんの馬も歩行出す。じゃらんじゃらん。
「あれは那古井(なこい)の男かい」
「はい、那古井の源兵衛で御座んす」
「あの男がどこぞの嫁さんを馬へ乗せて、(とうげ)を越したのかい」
「志保田の嬢様が城下へ御輿入(おこしいれ)のときに、嬢様を青馬(あお)に乗せて、源兵衛が覊絏(はづな)()いて通りました。――月日の立つのは早いもので、もう今年で五年になります」
 鏡に(むか)うときのみ、わが頭の白きを(かこ)つものは幸の部に属する人である。指を折って始めて、五年の流光に、転輪の()(おもむき)を解し得たる婆さんは、人間としてはむしろ(せん)に近づける方だろう。余はこう答えた。
「さぞ美くしかったろう。見にくればよかった」
「ハハハ今でも御覧になれます。湯治場(とうじば)へ御越しなされば、きっと出て御挨拶をなされましょう」
「はあ、今では里にいるのかい。やはり裾模様(すそもよう)振袖(ふりそで)を着て、高島田に()っていればいいが」
「たのんで御覧なされ。着て見せましょ」
 余はまさかと思ったが、婆さんの様子は存外真面目(まじめ)である。非人情の旅にはこんなのが出なくては面白くない。婆さんが云う。
「嬢様と長良(ながら)乙女(おとめ)とはよく似ております」
「顔がかい」
「いいえ。身の成り行きがで御座んす」
「へえ、その長良の乙女と云うのは何者かい」
(むか)しこの村に長良の乙女と云う、美くしい長者(ちょうじゃ)の娘が御座りましたそうな」
「へえ」
「ところがその娘に二人の男が一度に懸想(けそう)して、あなた」
「なるほど」
「ささだ男に(なび)こうか、ささべ男に靡こうかと、娘はあけくれ思い(わずら)ったが、どちらへも靡きかねて、とうとう

あきづけばをばなが上に置く露の、けぬべくもわは、おもほゆるかも

と云う歌を()んで、淵川(ふちかわ)へ身を投げて()てました」
 余はこんな山里へ来て、こんな婆さんから、こんな古雅(こが)な言葉で、こんな古雅な話をきこうとは思いがけなかった。
「これから五丁東へ(くだ)ると、道端(みちばた)五輪塔(ごりんのとう)が御座んす。ついでに長良(ながら)乙女(おとめ)の墓を見て御行きなされ」
 余は心のうちに是非見て行こうと決心した。婆さんは、そのあとを語りつづける。
「那古井の嬢様にも二人の男が(たた)りました。一人は嬢様が京都へ修行に出て御出(おい)での頃御逢(おあ)いなさったので、一人はここの城下で随一の物持ちで御座んす」
「はあ、御嬢さんはどっちへ靡いたかい」
「御自身は是非京都の方へと御望みなさったのを、そこには色々な理由(わけ)もありましたろが、親ご様が無理にこちらへ取りきめて……」
「めでたく、淵川(ふちかわ)へ身を投げんでも済んだ訳だね」
「ところが――先方(さき)でも器量望みで御貰(おもら)いなさったのだから、随分大事にはなさったかも知れませぬが、もともと()いられて御出なさったのだから、どうも折合(おりあい)がわるくて、御親類でもだいぶ御心配の様子で御座んした。ところへ今度の戦争で、旦那様の勤めて御出の銀行がつぶれました。それから嬢様はまた那古井の方へ御帰りになります。世間では嬢様の事を不人情だとか、薄情だとか色々申します。もとは極々(ごくごく)内気(うちき)の優しいかたが、この頃ではだいぶ気が荒くなって、何だか心配だと源兵衛が来るたびに申します。……」
 これからさきを聞くと、せっかくの趣向(しゅこう)(こわ)れる。ようやく仙人になりかけたところを、誰か来て羽衣(はごろも)を帰せ帰せと催促(さいそく)するような気がする。七曲(ななまが)りの険を(おか)して、やっとの(おもい)で、ここまで来たものを、そうむやみに俗界に引きずり(おろ)されては、飄然(ひょうぜん)と家を出た甲斐(かい)がない。世間話しもある程度以上に立ち入ると、浮世の(にお)いが毛孔(けあな)から染込(しみこ)んで、(あか)身体(からだ)が重くなる。
「御婆さん、那古井へは一筋道だね」と十銭銀貨を一枚床几(しょうぎ)の上へかちりと投げ出して立ち上がる。
長良(ながら)の五輪塔から右へ御下(おくだ)りなさると、六丁ほどの近道になります。(みち)はわるいが、御若い方にはその(ほう)がよろしかろ。――これは多分に御茶代を――気をつけて御越しなされ」

 

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