返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 夏目漱石 » 正文

草枕 六(3)

时间: 2021-02-07    进入日语论坛
核心提示: 鉛筆を置いて考えた。こんな抽象的(ちゅうしょうてき)な興趣を画にしようとするのが、そもそもの間違である。人間にそう変りは
(单词翻译:双击或拖选)

 鉛筆を置いて考えた。こんな抽象的(ちゅうしょうてき)な興趣を画にしようとするのが、そもそもの間違である。人間にそう変りはないから、多くの人のうちにはきっと自分と同じ感興に触れたものがあって、この感興を何らの手段かで、永久化せんと試みたに相違ない。試みたとすればその手段は何だろう。
 たちまち音楽の二字がぴかりと眼に映った。なるほど音楽はかかる時、かかる必要に(せま)られて生まれた自然の声であろう。(がく)()くべきもの、習うべきものであると、始めて気がついたが、不幸にして、その辺の消息はまるで不案内である。
 次に詩にはなるまいかと、第三の領分に踏み込んで見る。レッシングと云う男は、時間の経過を条件として起る出来事を、詩の本領であるごとく論じて、詩画は不一にして両様なりとの根本義を立てたように記憶するが、そう詩を見ると、今余の発表しようとあせっている境界(きょうがい)もとうてい物になりそうにない。余が嬉しいと感ずる心裏(しんり)の状況には時間はあるかも知れないが、時間の流れに沿うて、逓次(ていじ)に展開すべき出来事の内容がない。一が去り、二が(きた)り、二が消えて三が生まるるがために(うれ)しいのではない。初から窈然(ようぜん)として同所(どうしょ)把住(はじゅう)する(おもむ)きで嬉しいのである。すでに同所に把住する以上は、よしこれを普通の言語に翻訳したところで、必ずしも時間的に材料を按排(あんばい)する必要はあるまい。やはり絵画と同じく空間的に景物を配置したのみで出来るだろう。ただいかなる景情(けいじょう)を詩中に持ち来って、この曠然(こうぜん)として倚托(きたく)なき有様を写すかが問題で、すでにこれを(とら)え得た以上はレッシングの説に従わんでも詩として成功する訳だ。ホーマーがどうでも、ヴァージルがどうでも構わない。もし詩が一種のムードをあらわすに適しているとすれば、このムードは時間の制限を受けて、順次に進捗(しんちょく)する出来事の助けを()らずとも、単純に空間的なる絵画上の要件を()たしさえすれば、言語をもって(えが)き得るものと思う。
 議論はどうでもよい。ラオコーンなどは大概忘れているのだから、よく調べたら、こっちが怪しくなるかも知れない。とにかく、()にしそくなったから、一つ詩にして見よう、と写生帖の上へ、鉛筆を押しつけて、前後に身をゆすぶって見た。しばらくは、筆の先の()がった所を、どうにか運動させたいばかりで、(ごう)も運動させる(わけ)に行かなかった。急に朋友(ほうゆう)の名を失念して、咽喉(のど)まで出かかっているのに、出てくれないような気がする。そこで(あきら)めると、出損(でそく)なった名は、ついに腹の底へ収まってしまう。
 葛湯(くずゆ)を練るとき、最初のうちは、さらさらして、(はし)手応(てごたえ)がないものだ。そこを辛抱(しんぼう)すると、ようやく粘着(ねばり)が出て、()()ぜる手が少し重くなる。それでも構わず、箸を休ませずに廻すと、今度は廻し切れなくなる。しまいには(なべ)の中の葛が、求めぬに、先方から、争って箸に附着してくる。詩を作るのはまさにこれだ。
 手掛(てがか)りのない鉛筆が少しずつ動くようになるのに勢を得て、かれこれ二三十分したら、

青春二三月。愁随芳草長。閑花落空庭。素琴横虚堂。蛸掛不動。篆煙繞竹梁。

と云う六句だけ出来た。読み返して見ると、みな画になりそうな句ばかりである。これなら始めから、画にすればよかったと思う。なぜ画よりも詩の方が作り(やす)かったかと思う。ここまで出たら、あとは大した苦もなく出そうだ。しかし画に出来ない(じょう)を、次には(うた)って見たい。あれか、これかと思い(わずら)った末とうとう、

独坐無隻語。方寸認微光。人間徒多事。此境孰可忘。会得一日静。正知百年忙。遐懐寄何処。緬白雲郷。

と出来た。もう一返(いっぺん)最初から読み直して見ると、ちょっと面白く読まれるが、どうも、自分が今しがた(はい)った神境を写したものとすると、索然(さくぜん)として物足りない。ついでだから、もう一首作って見ようかと、鉛筆を握ったまま、何の気もなしに、入口の方を見ると、(ふすま)を引いて、()(はな)った幅三尺の空間をちらりと、奇麗な影が通った。はてな。
 余が眼を転じて、入口を見たときは、奇麗なものが、すでに引き開けた襖の影に半分かくれかけていた。しかもその姿は余が見ぬ前から、動いていたものらしく、はっと思う間に通り越した。余は詩をすてて入口を見守る。
 一分と立たぬ間に、影は反対の方から、逆にあらわれて来た。振袖姿(ふりそですがた)のすらりとした女が、音もせず、向う二階の椽側(えんがわ)寂然(じゃくねん)として歩行(あるい)て行く。余は覚えず鉛筆を落して、鼻から吸いかけた息をぴたりと留めた。
 花曇(はなぐも)りの空が、刻一刻に天から、ずり落ちて、今や降ると待たれたる夕暮の欄干(らんかん)に、しとやかに行き、しとやかに帰る振袖の影は、余が座敷から六(けん)の中庭を隔てて、重き空気のなかに蕭寥(しょうりょう)と見えつ、隠れつする。
 女はもとより口も聞かぬ。傍目(わきめ)()らぬ。(えん)に引く(すそ)の音さえおのが耳に入らぬくらい静かに歩行(ある)いている。腰から下にぱっと色づく、裾模様(すそもよう)は何を染め抜いたものか、遠くて()からぬ。ただ無地(むじ)と模様のつながる中が、おのずから(ぼか)されて、夜と昼との境のごとき心地(ここち)である。女はもとより夜と昼との境をあるいている。

 

轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%

热门TAG: