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草枕 十二(5)

时间: 2021-03-09    进入日语论坛
核心提示: 岨道(そばみち)を登り切ると、山の出鼻(でばな)の平(たいら)な所へ出た。北側は翠(みど)りを畳(たた)む春の峰で、今朝椽(えん)
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 岨道(そばみち)を登り切ると、山の出鼻(でばな)(たいら)な所へ出た。北側は(みど)りを(たた)む春の峰で、今朝(えん)から仰いだあたりかも知れない。南側には焼野とも云うべき地勢が幅半丁ほど広がって、末は(くず)れた(がけ)となる。崖の下は今過ぎた蜜柑山で、村を(また)いで(むこう)を見れば、眼に入るものは言わずも知れた青海(あおうみ)である。
 (みち)は幾筋もあるが、合うては別れ、別れては合うから、どれが本筋とも認められぬ。どれも路である代りに、どれも路でない。草のなかに、黒赤い地が、見えたり隠れたりして、どの筋につながるか見分(みわけ)のつかぬところに変化があって面白い。
 どこへ腰を()えたものかと、草のなかを遠近(おちこち)徘徊(はいかい)する。(えん)から見たときは()になると思った景色も、いざとなると存外(まと)まらない。色もしだいに変ってくる。草原をのそつくうちに、いつしか()く気がなくなった。描かぬとすれば、地位は構わん、どこへでも(すわ)った所がわが住居(すまい)である。()み込んだ春の日が、深く草の根に(こも)って、どっかと尻を(おろ)すと、眼に入らぬ陽炎(かげろう)()(つぶ)したような心持ちがする。
 海は足の下に光る。遮ぎる雲の一片(ひとひら)さえ持たぬ春の日影は、(あま)ねく水の上を照らして、いつの間にかほとぼりは波の底まで()み渡ったと思わるるほど暖かに見える。色は一刷毛(ひとはけ)紺青(こんじょう)を平らに流したる所々に、しろかねの細鱗(さいりん)を畳んで(こま)やかに動いている。春の日は限り無き(あめ)(した)を照らして、天が下は限りなき水を(たた)えたる間には、白き帆が小指の(つめ)ほどに見えるのみである。しかもその帆は全く動かない。往昔入貢(そのかみにゅうこう)高麗船(こまぶね)が遠くから渡ってくるときには、あんなに見えたであろう。そのほかは大千(だいせん)世界を(きわ)めて、照らす日の世、照らさるる海の世のみである。
 ごろりと()る。帽子が(ひたい)をすべって、やけに阿弥陀(あみだ)となる。所々の草を一二尺()いて、木瓜(ぼけ)の小株が茂っている。余が顔はちょうどその一つの前に落ちた。木瓜(ぼけ)は面白い花である。枝は頑固(がんこ)で、かつて(まが)った事がない。そんなら真直(まっすぐ)かと云うと、けっして真直でもない。ただ真直な短かい枝に、真直な短かい枝が、ある角度で衝突して、(しゃ)に構えつつ全体が出来上っている。そこへ、(べに)だか白だか要領を得ぬ花が安閑(あんかん)と咲く。(やわら)かい葉さえちらちら着ける。評して見ると木瓜は花のうちで、(おろ)かにして(さと)ったものであろう。世間には(せつ)を守ると云う人がある。この人が来世(らいせ)に生れ変るときっと木瓜になる。余も木瓜になりたい。

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