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草枕 十二(6)

时间: 2021-03-09    进入日语论坛
核心提示: 小供のうち花の咲いた、葉のついた木瓜(ぼけ)を切って、面白く枝振(えだぶり)を作って、筆架(ひつか)をこしらえた事がある。そ
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 小供のうち花の咲いた、葉のついた木瓜(ぼけ)を切って、面白く枝振(えだぶり)を作って、筆架(ひつか)をこしらえた事がある。それへ二銭五厘の水筆(すいひつ)を立てかけて、白い穂が花と葉の間から、隠見(いんけん)するのを机へ()せて楽んだ。その日は木瓜(ぼけ)筆架(ひつか)ばかり気にして寝た。あくる日、眼が()めるや(いな)や、飛び起きて、机の前へ行って見ると、花は()え葉は枯れて、白い穂だけが元のごとく光っている。あんなに奇麗なものが、どうして、こう一晩のうちに、枯れるだろうと、その時は不審(ふしん)の念に()えなかった。今思うとその時分の方がよほど出世間的(しゅっせけんてき)である。
 ()るや否や眼についた木瓜は二十年来の旧知己である。見詰めているとしだいに気が遠くなって、いい心持ちになる。また詩興が浮ぶ。
 寝ながら考える。一句を得るごとに写生帖に(しる)して行く。しばらくして出来上ったようだ。始めから読み直して見る。

出門多所思。春風吹吾衣。芳草生車轍。廃道入霞微。停而矚目。万象帯晴暉。聴黄鳥宛転。観落英紛霏。行尽平蕪遠。題詩古寺扉。孤愁高雲際。大空断鴻帰。寸心何窈窕。縹緲忘是非。三十我欲老。韶光猶依々。逍遥随物化。悠然対芬菲。

 ああ出来た、出来た。これで出来た。寝ながら木瓜を()て、世の中を忘れている感じがよく出た。木瓜が出なくっても、海が出なくっても、感じさえ出ればそれで結構である。と(うな)りながら、喜んでいると、エヘンと云う人間の咳払(せきばらい)が聞えた。こいつは驚いた。
 寝返(ねがえ)りをして、声の響いた方を見ると、山の出鼻を回って、雑木(ぞうき)の間から、一人の男があらわれた。
 茶の中折(なかお)れを(かぶ)っている。中折れの形は(くず)れて、(かたむ)(へり)の下から眼が見える。眼の恰好(かっこう)はわからんが、たしかにきょろきょろときょろつくようだ。(あい)縞物(しまもの)の尻を端折(はしょ)って、素足(すあし)に下駄がけの()()ちは、何だか鑑定がつかない。野生(やせい)(ひげ)だけで判断するとまさに野武士(のぶし)の価値はある。
 男は岨道(そばみち)を下りるかと思いのほか、曲り角からまた引き返した。もと来た路へ姿をかくすかと思うと、そうでもない。またあるき直してくる。この草原を、散歩する人のほかに、こんなに行きつ戻りつするものはないはずだ。しかしあれが散歩の姿であろうか。またあんな男がこの近辺(きんぺん)に住んでいるとも考えられない。男は時々立ち(どま)る。首を傾ける。または四方を見廻わす。大に考え込むようにもある。人を待ち合せる風にも取られる。何だかわからない。

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