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虞美人草 一(5)

时间: 2021-03-09    进入日语论坛
核心提示:「そら、坂の途中で邪魔になる。ちょっと退(ど)いてやれ」 百折(ももお)れ千折(ちお)れ、五間とは直(すぐ)に続かぬ坂道を、呑気
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「そら、坂の途中で邪魔になる。ちょっと退()いてやれ」
 百折(ももお)千折(ちお)れ、五間とは(すぐ)に続かぬ坂道を、呑気(のんき)な顔の女が、ごめんやすと下りて来る。身の(たけ)に余る粗朶(そだ)の大束を、(みど)()る濃き髪の上に(おさ)え付けて、手も()けずに(いただ)きながら、宗近君の横を()り抜ける。()(しげ)る立ち枯れの(かや)をごそつかせた(うし)ろ姿の()につくは、目暗縞(めくらじま)の黒きが中を(はす)に抜けた赤襷(あかだすき)である。一里を(へだ)てても、そこと()(ゆび)の先に、引っ着いて見えるほどの藁葺(わらぶき)は、この女の家でもあろう。天武天皇の落ちたまえる昔のままに、棚引(たなび)(かすみ)(とこ)しえに八瀬(やせ)の山里を封じて長閑(のどか)である。
「この辺の女はみんな奇麗(きれい)だな。感心だ。何だか()のようだ」と宗近君が云う。
「あれが大原女(おはらめ)なんだろう」
「なに八瀬女(やせめ)だ」
「八瀬女と云うのは聞いた事がないぜ」
「なくっても八瀬の女に違ない。嘘だと思うなら今度()ったら聞いてみよう」
「誰も嘘だと云やしない。しかしあんな女を総称して大原女と云うんだろうじゃないか」
「きっとそうか、受合うか」
「そうする方が詩的でいい。何となく()でいい」
「じゃ当分雅号として用いてやるかな」
「雅号は好いよ。世の中にはいろいろな雅号があるからな。立憲政体だの、万有神教だの、忠、信、孝、(てい)、だのってさまざまな奴があるから」
「なるほど、蕎麦屋(そばや)(やぶ)がたくさん出来て、牛肉屋がみんないろはになるのもその格だね」
「そうさ、御互に学士を名乗ってるのも同じ事だ」
「つまらない。そんな事に帰着するなら雅号は()せばよかった」
「これから君は外交官の雅号を取るんだろう」
「ハハハハあの雅号はなかなか取れない。試験官に雅味のある奴がいないせいだな」
「もう何遍落第したかね。三遍か」
「馬鹿を申せ」
「じゃ二遍か」
「なんだ、ちゃんと知ってる癖に。はばかりながら落第はこれでたった一遍だ」
「一度受けて一遍なんだから、これからさき……」
「何遍やるか分らないとなると、おれも少々心細い。ハハハハ。時に僕の雅号はそれでいいが、君は全体何をするんだい」

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