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虞美人草 二(1)

时间: 2021-03-09    进入日语论坛
核心提示: 紅(くれない)を弥生(やよい)に包む昼酣(たけなわ)なるに、春を抽(ぬき)んずる紫(むらさき)の濃き一点を、天地(あめつち)の眠れ
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 (くれない)弥生(やよい)に包む昼(たけなわ)なるに、春を(ぬき)んずる(むらさき)の濃き一点を、天地(あめつち)の眠れるなかに、(あざ)やかに(した)たらしたるがごとき女である。夢の世を夢よりも(あでやか)(なが)めしむる黒髪を、乱るるなと畳める(びん)の上には、玉虫貝(たまむしかい)冴々(さえさえ)(すみれ)に刻んで、細き金脚(きんあし)にはっしと打ち込んでいる。静かなる昼の、遠き世に心を奪い去らんとするを、黒き(ひとみ)のさと動けば、見る人は、あなやと我に帰る。半滴(はんてき)のひろがりに、一瞬の短かきを(ぬす)んで、疾風の()()すは、春にいて春を制する深き(まなこ)である。この(ひとみ)(さかのぼ)って、魔力の(きょう)(きわ)むるとき、桃源(とうげん)に骨を白うして、再び塵寰(じんかん)に帰るを得ず。ただの夢ではない。糢糊(もこ)たる夢の大いなるうちに、(さん)たる一点の妖星(ようせい)が、死ぬるまで我を見よと、紫色の、(まゆ)近く(せま)るのである。女は紫色の着物を着ている。
 静かなる昼を、静かに(しおり)()いて、(はく)に重き一巻を、女は膝の上に読む。

「墓の前に(ひざま)ずいて云う。この手にて――この手にて君を(うず)め参らせしを、今はこの手も自由ならず。捕われて遠き国に、行くほどもあらねば、この手にて君が墓を(はら)い、この手にて(こう)()くべき折々の、(とこ)しえに尽きたりと思いたまえ。生ける時は、莫耶(ばくや)も我らを()き難きに、死こそ無惨(むざん)なれ。羅馬(ロウマ)の君は埃及(エジプト)に葬むられ、埃及なるわれは、君が羅馬に(うず)められんとす。君が羅馬は――わが思うほどの恩を、()きわれに(こば)める、君が羅馬は、つれなき君が羅馬なり。されど、(なさけ)だにあらば、羅馬の神は、よも生きながらの(はずかしめ)に、(いち)に引かるるわれを、雲の上よりよそに見たまわざるべし。君が(あだ)なる人の勝利を飾るわれを。埃及の神に見離されたるわれを。君が片身と残したまえるわが命こそ仇なれ。情ある羅馬の神に祈る。――われを隠したまえ。恥見えぬ墓の底に、君とわれを永劫(えいごう)に隠したまえ。」

 女は顔を上げた。蒼白(あおしろ)(ほお)(しま)れるに、薄き化粧をほのかに浮かせるは、一重(ひとえ)の底に、余れる何物かを(かく)せるがごとく、蔵せるものを見極(みき)わめんとあせる男はことごとく(とりこ)となる。男は(まばゆ)げに(なか)ば口元を動かした。口の居住(いずまい)(くず)るる時、この人の意志はすでに相手の餌食(えじき)とならねばならぬ。下唇(したくちびる)のわざとらしく色めいて、しかも判然(はっき)と口を切らぬ瞬間に、切り付けられたものは、必ず受け損う。

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