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虞美人草 二(6)

时间: 2021-03-09    进入日语论坛
核心提示: 女の声は静かなる春風(はるかぜ)をひやりと斬(き)った。詩の国に遊んでいた男は、急に足を外(はず)して下界に落ちた。落ちて見
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 女の声は静かなる春風(はるかぜ)をひやりと()った。詩の国に遊んでいた男は、急に足を(はず)して下界に落ちた。落ちて見ればただの人である。相手は寄りつけぬ高い(がけ)の上から、こちらを見下(みおろ)している。自分をこんな所に蹴落(けおと)したのは誰だと考える暇もない。
清姫(きよひめ)(じゃ)になったのは何歳(いくつ)でしょう」
左様(さよう)、やっぱり十代にしないと芝居になりませんね。おおかた十八九でしょう」
安珍(あんちん)は」
「安珍は二十五ぐらいがよくはないでしょうか」
「小野さん」
「ええ」
「あなたは御何歳(おいくつ)でしたかね」
(わたし)ですか――私はと……」
「考えないと分らないんですか」
「いえ、なに――たしか甲野君と御同(おな)(どし)でした」
「そうそう兄と御同い年ですね。しかし兄の方がよっぽど()けて見えますよ」
「なに、そうでも有りません」
「本当よ」
「何か(おご)りましょうか」
「ええ、奢ってちょうだい。しかし、あなたのは顔が若いのじゃない。気が若いんですよ」
「そんなに見えますか」
「まるで坊っちゃんのようですよ」
可愛想(かわいそう)に」
「可愛らしいんですよ」
 女の二十四は男の三十にあたる。理も知らぬ、非も知らぬ、世の中がなぜ廻転して、なぜ落ちつくかは無論知らぬ。大いなる古今の舞台の(きわ)まりなく発展するうちに、自己はいかなる地位を占めて、いかなる役割を演じつつあるかは(もと)より知らぬ。ただ口だけは巧者である。天下を相手にする事も、国家を向うへ廻す事も、一団の群衆を眼前に、事を処する事も、女には出来ぬ。女はただ一人を相手にする芸当を心得ている。一人と一人と戦う時、勝つものは(かなら)ず女である。男は必ず負ける。具象(ぐしょう)(かご)の中に()われて、個体の(あわ)(ついば)んでは嬉しげに羽搏(はばたき)するものは女である。籠の中の小天地で女と鳴く()を競うものは必ず(たお)れる。小野さんは詩人である。詩人だから、この籠の中に半分首を突き込んでいる。小野さんはみごとに鳴き(そこ)ねた。

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