返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 夏目漱石 » 正文

虞美人草 二(9)

时间: 2021-03-10    进入日语论坛
核心提示:「御音信(おたより)が有りますか」「いいえ」「時候が好いから京都は面白いでしょう」「あなたもいっしょに御出(おいで)になれば
(单词翻译:双击或拖选)

御音信(おたより)が有りますか」
「いいえ」
「時候が好いから京都は面白いでしょう」
「あなたもいっしょに御出(おいで)になればよかったのに」
(わたし)……」と小野さんは後を()かしてしまう。
「なぜ行らっしゃらなかったの」
「別に訳はないんです」
「だって、古い御馴染(おなじみ)じゃありませんか」
「え?」
 小野さんは、煙草の灰を畳の上に無遠慮に落す。「え?」と云う時、不要意に手が動いたのである。
「京都には長い事、いらしったんじゃありませんか」
「それで御馴染なんですか」
「ええ」
「あんまり古い馴染だから、もう行く気にならんのです」
「随分不人情ね」
「なに、そんな事はないです」と小野さんは比較的真面目(まじめ)になって、埃及煙草(エジプトたばこ)を肺の中まで吸い込んだ。
「藤尾、藤尾」と向うの座敷で呼ぶ声がする。
御母(おっか)さんでしょう」と小野さんが聞く。
「ええ」
(わたし)はもう帰ります」
「なぜです」
「でも何か御用が御在(おあ)りになるんでしょう」
「あったって構わないじゃありませんか。先生じゃありませんか。先生が教えに来ているんだから、誰が帰ったって構わないじゃありませんか」
「しかしあんまり教えないんだから」
「教わっていますとも、これだけ教わっていればたくさんですわ」
「そうでしょうか」
「クレオパトラや、何かたくさん教わってるじゃありませんか」
「クレオパトラぐらいで好ければ、いくらでもあります」
「藤尾、藤尾」と御母さんはしきりに呼ぶ。
「失礼ですがちょっと御免蒙(ごめんこうむ)ります。――なにまだ伺いたい事があるから待っていて下さい」
 藤尾は立った。男は六畳の座敷に取り残される。平床(ひらどこ)に据えた古薩摩(こさつま)香炉(こうろ)に、いつ()き残したる煙の(あと)か、こぼれた灰の、灰のままに(くず)れもせず、藤尾の部屋は昨日(きのう)も今日も静かである。敷き棄てた八反(はったん)座布団(ざぶとん)に、(ぬし)を待つ()温気(ぬくもり)は、軽く払う春風に、ひっそり(かん)と吹かれている。

轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%

热门TAG: