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虞美人草 二(11)

时间: 2021-03-10    进入日语论坛
核心提示: 御母さんの弁舌は滾々(こんこん)としてみごとである。小野さんは一字の間投詞を挟(さしはさ)む遑(いと)まなく、口車(くちぐる
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 御母さんの弁舌は滾々(こんこん)としてみごとである。小野さんは一字の間投詞を(さしはさ)(いと)まなく、口車(くちぐるま)に乗って()けて行く。行く先は(もと)より判然せぬ。藤尾は黙って最前小野さんから借りた書物を開いて(つづき)を読んでいる。

「花を墓に、墓に口を接吻(くちづけ)して、()きわれを、ひたふるに嘆きたる女王は、浴湯()をこそと召す。(ゆあ)みしたる(のち)夕餉(ゆうげ)をこそと召す。この時(いや)しき厠卒(こもの)ありて小さき(かご)無花果(いちじく)を盛りて参らす。女王の該撒(シイザア)に送れる(ふみ)に云う。願わくは安図尼(アントニイ)と同じ墓にわれを(うず)めたまえと。無花果(いちじく)の繁れる青き葉陰にはナイルの(つち)(した)を冷やしたる毒蛇(どくだ)を、そっと忍ばせたり。該撒(シイザア)の使は走る。(たつ)を排して(まなこ)を射れば――黄金(こがね)の寝台に、位高き(よそおい)を今日と()らして、女王の(しかばね)は是非なく(よこた)わる。アイリスと呼ぶは女王の足のあたりにこの世を捨てぬ。チャーミオンと名づけたるは、女王の(かしら)のあたりに、月黒き()の露をあつめて、千顆(せんか)(たま)を鋳たる(かんむり)の、今落ちんとするを力なく支う。闥を排したる該撒の使はこはいかにと云う。埃及(エジプト)御代(みよ)しろし召す人の最後ぞ、かくありてこそと、チャーミオンは言い終って、倒れながらに目を(ねむ)る」

 埃及の御代しろし召す人の最後ぞ、かくありてこそと云う最後の一句は、()()むる錬香(ねりこう)の尽きなんとして(かす)かなる尾を虚冥(きょめい)()くごとく、(まった)(ページ)が淡く(かす)んで見える。
「藤尾」と知らぬ御母(おっか)さんは呼ぶ。
 男はやっと寛容(くつろい)だ姿で、呼ばれた方へ視線を向ける。呼ばれた当人は俯向(うつむい)ている。
「藤尾」と御母さんは呼び直す。
 女の眼はようやくに頁を離れた。波を打つ廂髪(ひさしがみ)の、白い額に(つづ)く下から、骨張らぬ細い鼻を()けて、(くれない)(すん)に織る唇が――唇をそと(すべ)って、(ほお)の末としっくり落ち合うが――()ててなよやかに退()いて行く咽喉(のど)が――しだいと現実世界に()り出して来る。

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