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虞美人草 四 (3)

时间: 2021-03-29    进入日语论坛
核心提示: 過去の節穴を塞(ふさ)ぎかけたものは現在に満足する。現在が不景気だと未来を製造する。小野さんの現在は薔薇(ばら)である。薔
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 過去の節穴を(ふさ)ぎかけたものは現在に満足する。現在が不景気だと未来を製造する。小野さんの現在は薔薇(ばら)である。薔薇の(つぼみ)である。小野さんは未来を製造する必要はない。(つぼ)んだ薔薇を一面に開かせればそれが(おのず)からなる彼の未来である。未来の節穴を得意の(くだ)から(なが)めると、薔薇はもう開いている。手を出せば(つら)まえられそうである。早く捕まえろと誰かが耳の(そば)で云う。小野さんは博士論文を書こうと決心した。
 論文が出来たから博士になるものか、博士になるために論文が出来るものか、博士に聞いて見なければ分らぬが、とにかく論文を書かねばならぬ。ただの論文ではならぬ、(かなら)ず博士論文でなくてはならぬ。博士は学者のうちで色のもっとも見事なるものである。未来の管を覗くたびに博士の二字が金色(こんじき)に燃えている。博士の傍には金時計が天から(かか)っている。時計の下には赤い柘榴石(ガーネット)が心臓の(ほのお)となって揺れている。その(わき)に黒い眼の藤尾さんが(ほそ)い腕を出して手招(てまね)ぎをしている。すべてが美くしい()である。詩人の理想はこの画の中の人物となるにある。
 (むか)しタンタラスと云う人があった。わるい事をした(ばち)で、(ひど)い目に()うたと書いてある。身体(からだ)は肩深く水に(ひた)っている。頭の上には(うま)そうな菓物(くだもの)累々(るいるい)と枝をたわわに結実()っている。タンタラスは咽喉(のど)(かわ)く。水を飲もうとすると水が退()いて行く。タンタラスは腹が減る。菓物を食おうとすると菓物が逃げて行く。タンタラスの口が一尺動くと向うでも一尺動く。二尺(すす)むと向うでも二尺前む。三尺尺は愚か、千里を行き尽しても、タンタラスは腹が減り通しで、咽喉が渇き続けである。おおかた今でも水と菓物を追っ()けて歩いてるだろう。――未来の管を覗くたびに、小野さんは、何だかタンタラスの子分のような気がする。それのみではない。時によると藤尾さんがつんと澄ましている事がある。長い(まゆ)を押しつけたように短かくして、(きっ)(にら)めている事がある。柘榴石がぱっと燃えて、※(「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64)のなかに、女の姿が、包まれながら消えて行く事がある。博士の二字がだんだん薄くなって()げながら暗くなる事がある。時計が(はる)かな天から隕石(いんせき)のように落ちて来て、割れる事がある。その時はぴしりと云う音がする。小野さんは詩人であるからいろいろな未来を(えが)き出す。
 机の前に頬杖(ほおづえ)を突いて、色硝子(いろガラス)一輪挿(いちりんざし)をぱっと(おお)椿(つばき)の花の奥に、小野さんは、例によって自分の未来を覗いている。幾通りもある未来のなかで今日は一層出来がわるい。
「この時計をあなたに上げたいんだけれどもと女が云う。どうか下さいと小野さんが手を出す。女がその手をぴしゃりと平手(ひらて)でたたいて、御気の毒様もう約束済ですと云う。じゃ時計は入りません、しかしあなたは……と聞くと、私? 私は無論時計にくっ付いているんですと(むこう)をむいて、すたすた歩き出す」

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