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虞美人草 十二 (3)

时间: 2021-04-17    进入日语论坛
核心提示: 芭蕉布(ばしょうふ)の襖(ふすま)を開けると、押入の上段は夜具、下には柳行李(やなぎこうり)が見える。小野さんは行李の上に畳
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 芭蕉布(ばしょうふ)(ふすま)を開けると、押入の上段は夜具、下には柳行李(やなぎこうり)が見える。小野さんは行李の上に畳んである背広(せびろ)を出して手早く着換(きか)え終る。帽子は壁に(ぬし)を待つ。がらりと障子を明けて、赤い鼻緒(はなお)上草履(うわぞうり)に、カシミヤの靴足袋(くつたび)を無理に突き込んだ時、下女が来る。
「おや御出掛。少し御待ちなさいよ」
「何だ」と草履から顔を上げる。下女は笑っている。
「何か用かい」
「ええ」とやっぱり笑っている。
「何だ。冗談(じょうだん)か」と行こうとすると、(おろ)し立ての草履が片方(かたかた)足を離れて、拭き込んだ廊下を洋灯(ランプ)部屋の方へ滑って行く。
「ホホホホ(あん)まり周章(あわて)るもんだから。御客様ですよ」
「誰だい」
「あら待ってた癖に空っとぼけて……」
「待ってた? 何を」
「ホホホホ大変真面目(まじめ)ですね」と笑いながら、返事も待たず、入口へ引き返す。小野さんは気掛(きがかり)な顔をして障子の(そば)に上草履を(そろ)えたまま廊下の突き当りを(なが)めている。何が出てくるかと思う。焦茶(こげちゃ)の中折が鴨居(かもい)を越すほどの高い背を()して、薄暗い廊下のはずれに折目正しく着こなした背広の地味なだけに、胸開(むなあき)の狭い胴衣(チョッキ)から白い襯衣(シャツ)と白い(えり)が著るしく上品に見える。小野さんは姿よく着こなした衣裳(いしょう)を、見栄(みばえ)のせぬ廊下の片隅に、中ぶらりんに落ちつけて、光る眼鏡を斜めに、突き当りを眺めている。何が出てくるのかと思いながら眺めている。両手を洋袴(ズボン)隠袋(かくし)()し込むのは落ちつかぬ時の、落ちついた姿である。
「そこを(まが)ると真直です」と云う下女の声が聞えたと思うと、すらりと小夜子の姿が廊下の(はじ)にあらわれた。海老茶色(えびちゃいろ)緞子(どんす)の片側が竜紋(りょうもん)の所だけ異様に光線を射返して見える。在来(ありきた)りの銘仙(めいせん)(あわせ)を、白足袋(しろたび)の甲を隠さぬほどに着て、きりりと角を曲った時、長襦袢(ながじゅばん)らしいものがちらと色めいた。同時に(さえ)ぎるものもない中廊下に七歩の間隔を置いて、男女(なんにょ)の視線は御互の顔の上に落ちる。
 男はおやと思う。姿勢だけは(くず)さない。女ははっと躊躇(ためら)う。やがて頬に差す(くれない)を一度にかくして、乱るる笑顔を肩共に落す。油を()さぬ黒髪に、(さざなみ)琥珀(こはく)に寄る幅広の絹の色が(あざやか)な翼を片鬢(かたびん)に張る。

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