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虞美人草 十四 (8)

时间: 2021-04-20    进入日语论坛
核心提示: 小野さんは突然冗談(じょうだん)を云う。にわかに景気が好くなった。「団子を食っているところも見た」「どこで」「やっぱり嵐
(单词翻译:双击或拖选)
 小野さんは突然冗談(じょうだん)を云う。にわかに景気が好くなった。
「団子を食っているところも見た」
「どこで」
「やっぱり嵐山(らんざん)だ」
「それっ切りですか」
「まだ有る。京都から東京までいっしょに来た」
「なるほど勘定して見ると同じ汽車でしたね」
「君が停車場(ステーション)へ迎えに行ったところも見た」
「そうでしたか」と小野さんは苦笑した。
「あの人は東京ものだそうだね」
「誰が……」と云い掛けて、小野さんは、眼鏡の(たま)のはずれから、変に相手の横顔を(のぞ)き込んだ。
「誰が? 誰がとは」
「誰が話したんです」
 小野さんの調子は存外落ついている。
「宿屋の下女が話した」
「宿屋の下女が? 蔦屋(つたや)の?」
 念を押したような、(あと)が聞きたいような、後がないのを確かめたいような様子である。
「うん」と宗近君は云った。
「蔦屋の下女は……」
「そっちへ曲るのかい」
「もう少し、どうです、散歩は」
「もう好い加減に引き返そう。さあ大事の紙屑籠。落さないように持って行くがいい」
 小野さんは(うやうや)しく屑籠を受取った。宗近君は飄然(ひょうぜん)として去る。
 一人になると急ぎたくなる。急げば早く孤堂先生の(うち)へ着く。着くのはありがたくない。孤堂先生の家へ急ぎたいのではない。小野さんは何だか急ぎたいのである。両手は(ふさが)っている。足は動いている。恩賜の時計は胴衣(チョッキ)のなかで鳴っている。往来は(にぎや)かである。――すべてのものを忘れて、小野さんの頭は急いでいる。早くしなければならん。しかしどうして早くして好いか分らない。ただ一昼夜が十二時間に縮まって、運命の車が思う方角へ全速力で廻転してくれるよりほかに致し方はない。進んで自然の法則を破るほどな不料簡(ふりょうけん)は起さぬつもりである。しかし自然の方で、少しは事情を斟酌(しんしゃく)して、自分の味方になって働らいてくれても好さそうなものだ。そうなる事は受合だと保証がつけば、観音(かんのん)様へ御百度を踏んでも構わない。不動様へ護摩(ごま)を上げても(よろ)しい。耶蘇教(ヤソきょう)の信者には無論なる。小野さんは歩きながら神の必要を感じた。

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