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虞美人草 十二 (4)

时间: 2021-04-17    进入日语论坛
核心提示:「さあ」と小野さんは隔たる人を近く誘うような挨拶(あいさつ)をする。「どちらへか御出掛で」と立ちながら両手を前に重ねた女は
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「さあ」と小野さんは隔たる人を近く誘うような挨拶(あいさつ)をする。
「どちらへか御出掛で……」と立ちながら両手を前に重ねた女は、落した肩を、少しく浮かしたままで、気の毒そうに動かない。
「いえ何……まあ御這入(おはい)んなさい。さあ」と片足を部屋のうちへ引く。
「御免」と云いながら、手を重ねたまま擦足(すりあし)に廊下を(すべ)って来る。
 男は全く部屋の中へ引き込んだ。女もつづいて這入(はい)る。明かなる日永の窓は若き二人に若き対話を(うな)がす。
「昨夜は御忙(おいそが)しいところを……」と女は入口に近く手をつかえる。
「いえ、さぞ御疲でしたろう。どうです、御気分は。もうすっかり好いですか」
「はあ、御蔭(おかげ)さまで」と云う顔は何となく(やつ)れている。男はちょっと真面目になった。女はすぐ弁解する。
「あんな人込(ひとごみ)へは滅多(めった)に出つけた事がないもんですから」
 文明の民は驚ろいて喜ぶために博覧会を開く。過去の人は驚ろいて(こわ)がるためにイルミネーションを見る。
「先生はどうですか」
 小夜子は返事を控えて(さみ)しく笑った。
「先生も雑沓(ざっとう)する所が(きらい)でしたね」
「どうも年を取ったもんですから」と気の毒そうに、相手から眼を(はず)して、畳の上に置いてある埋木(うもれぎ)の茶托を(なが)める。京焼の染付茶碗(そめつけぢゃわん)はさっきから膝頭(ひざがしら)()っている。
「御迷惑でしたろう」と小野さんは隠袋(ポッケット)から煙草入を取り出す。(やみ)を照す月の色に富士と三保の松原が細かに彫ってある。その松に緑の絵の具を使ったのは詩人の持物としては少しく俗である。派出(はで)を好む藤尾の贈物かも知れない。
「いえ、迷惑だなんて。こっちから願って置いて」と小夜子は頭から小野さんの言葉を打ち消した。男は煙草入を開く。裏は一面の鍍金(ときん)に、(しろかね)()えたる上を、花やかにぱっと流す。淋しき女は見事だと思う。
「先生だけなら、もっと閑静な所へ案内した方が好かったかも知れませんね」
 忙しがる小野を無理に都合させて、()かぬ人込へわざわざ出掛けるのも(みんな)自分が可愛いからである。済まぬ事には人込は自分も嫌である。せっかくの思に、(そで)振り交わして、長閑(のどか)(あゆみ)を、春の(よい)(なら)んで移す当人は、依然として近寄れない。小夜子は何と返事をしていいか躊躇(ためら)った。相手の親切に気兼をして、先方の心持を悪くさせまいと云う世態(せたい)染みた料簡(りょうけん)からではない。小夜子の躊躇ったのには、もう少し切ない意味が(こも)っている。

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