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虞美人草 十二 (12)

时间: 2021-04-17    进入日语论坛
核心提示:「当分私(わたし)があずかって置きます」「当分御前があずかる? それもよかろう。しかしあれは宗近にやる約束をしたから」「宗
(单词翻译:双击或拖选)

「当分(わたし)があずかって置きます」
「当分御前があずかる? それもよかろう。しかしあれは宗近にやる約束をしたから……」
「宗近さんに上げる時には私から上げます」
「御前から」と兄は少し顔を低くして妹の方へ眼を近寄せた。
「私から――ええ私から――私から誰かに上げます」と寄木(よせき)の机に(もた)せた(ひじ)()ねて、すっくり立ち上がる。紺と、濃い黄と、木賊(とくさ)海老茶(えびちゃ)棒縞(ぼうじま)が、棒のごとく(そろ)って立ち上がる。(すそ)だけが四色(よいろ)の波のうねりを打って白足袋の(こはぜ)を隠す。
「そうか」
と兄は雲斎底(うんさいぞこ)(かかと)を見せて、(むこう)へ行ってしまった。
 甲野さんが幽霊のごとく現われて、幽霊のごとく消える間に、小野さんは近づいて来る。いくたびの降る雨に、土に(こも)る青味を()し返して、湿(しめ)りながらに暖かき大地を踏んで近づいて来る。(みが)き上げた山羊(やぎ)の皮に(かむ)(ほこり)さえ目につかぬほどの奇麗(きれい)な靴を、刻み足に運ばして甲野家の門に近づいて来る。
 世を()()りのだらりとした姿の上に、義理に着る羽織の(ひも)を丸打に結んで、細い杖に本来空(ほんらいくう)手持無沙汰(てもちぶさた)(まぎ)らす甲野さんと、近づいてくる小野さんは(へい)(そば)でぱたりと逢った。自然は対照を好む。
「どこへ」と小野さんは帽に手を懸けて、笑いながら寄ってくる。
「やあ」と受け(こたえ)があった。そのまま洋杖(ステッキ)は動かなくなる。本来は洋杖さえ手持無沙汰なものである。
「今、ちょっと行こうと思って……」
「行きたまえ。藤尾はいる」と甲野さんは素直に相手を通す気である。小野さんは躊躇(ちゅうちょ)する。
「君はどこへ」とまた聞き直す。君の妹には用があるが、君はどうなっても構わないと云う態度は小野さんの取るに忍びざるところである。
「僕か、僕はどこへ行くか分らない。僕がこの杖を引っ張り廻すように、何かが僕を引っ張り廻すだけだ」
「ハハハハだいぶ哲学的だね。――散歩?」と下から(のぞ)()んだ。
「ええ、まあ……好い天気だね」
「好い天気だ。――散歩より博覧会はどうだい」
「博覧会か――博覧会は――昨夕(ゆうべ)見た」
「昨夕行ったって?」と小野さんの眼は一時に坐る。
「ああ」

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