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虞美人草 十二 (15)

时间: 2021-04-17    进入日语论坛
核心提示: 蘭(らん)は幽谷(ゆうこく)に生じ、剣は烈士に帰す。美くしき娘には、名ある聟(むこ)を取らねばならぬ。申込はたくさんあるが、
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 (らん)幽谷(ゆうこく)に生じ、剣は烈士に帰す。美くしき娘には、名ある(むこ)を取らねばならぬ。申込はたくさんあるが、娘の気に入らぬものは、自分の気に入らぬものは、役に立たぬ。指の太さに合わぬ指輪は貰っても捨てるばかりである。大き過ぎても小さ過ぎても聟には出来ぬ。したがって聟は今日(こんにち)まで出来ずにいた。(さん)として群がるもののうちにただ一人小野さんが残っている。小野さんは大変学問のできる人だと云う。恩賜の時計をいただいたと云う。もう少し立つと博士になると云う。のみならず愛嬌(あいきょう)があって親切である。上品で調子がいい。藤尾の聟として恥ずかしくはあるまい。世話になっても心持がよかろう。
 小野さんは申分(もうしぶん)のない聟である。ただ財産のないのが欠点である。しかし聟の財産で世話になるのは、いかに気に入った男でも幅が()かぬ。無一物の(それがし)を入れて、おとなしく嫁姑(よめしゅうとめ)を大事にさせるのが、藤尾の都合にもなる、自分のためでもある。一つ困る事はその財産である。(おっと)が外国で死んだ四ヵ月後の今日は当然欽吾の所有に()してしまった。魂胆はここから始まる。
 欽吾は一文の財産もいらぬと云う。家も藤尾にやると云う。義理の着物を脱いで便利の赤裸(はだか)になれるものなら、降って()いた温泉へ得たり賢こしと飛び込む気にもなる。しかし体裁に着る衣裳(いしょう)はそう無雑作(むぞうさ)()ぎ取れるものではない。降りそうだから(かさ)をやろうと投げ出した時、二本あれば遠慮をせぬが世間であるが、見す見すくれる人が()れるのを構わずにわがままな手を出すのは人の(おも)わくもある。そこに(なぞ)が出来る。くれると云うのは本気で云う(うそ)で、取らぬ顔つきを見せるのも隣近所への申訳に過ぎない。欽吾の財産を欽吾の方から無理に藤尾に譲るのを、厭々(いやいや)ながら受取った顔つきに、文明の手前を(つくろ)わねばならぬ。そこで謎が()ける。くれると云うのを、くれたくない意味と解いて、貰う料簡(りょうけん)で貰わないと主張するのが謎の女である。六畳敷の人生観はすこぶる複雑である。
 謎の女は問題の解決に苦しんでとうとう六畳敷を出た。貰いたいものを()くまで貰わないと主張して、しかも一日も早く貰ってしまう方法は微分積分でも容易に発見の出来ぬ方法である。謎の女が苦し(まぎ)れの屈託顔に六畳敷を出たのは、焦慮(じれった)いが(こう)じて、布団の上に()たたまれないからである。出て見ると春の日は存外長閑(のどか)で、平気に(びん)(なぶ)る温風はいやに人を馬鹿にする。謎の女はいよいよ気色(きしょく)が悪くなった。

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