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虞美人草 十二 (16)

时间: 2021-04-17    进入日语论坛
核心提示: 椽(えん)を左に突き当れば西洋館で、応接間につづく一部屋は欽吾が書斎に使っている。右は鍵(かぎ)の手に折れて、折れたはずれ
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 (えん)を左に突き当れば西洋館で、応接間につづく一部屋は欽吾が書斎に使っている。右は(かぎ)の手に折れて、折れたはずれの南に突き出した六畳が藤尾の居間となる。
 菱餅(ひしもち)の底を渡る気で真直(まっすぐ)な向う角を見ると藤尾が立っている。濡色(ぬれいろ)(さば)いた濃き(びん)のあたりを、(つが)の柱に()しつけて、斜めに持たした(えん)な姿の中ほどに、帯深く差し込んだ手頸(てくび)だけが白く見える。萩に伏し(すすき)(なび)故里(ふるさと)流離人(さすらいびと)はこんな風に(なが)める事がある。故里を離れぬ藤尾は何を眺めているか分らない。母は椽を曲って近寄った。
「何を考えているの」
「おや、御母(おっか)さん」と(なな)めな身体を柱から離す。振り返った眼つきには(うれい)の影さえもない。()の女と謎の女は互に顔を見合した。実の親子である。
「どうかしたのかい」と謎が云う。
「なぜ」と()が聞き返す。
「だって、何だか考え込んでいるからさ」
「何にも考えていやしません。庭の景色を見ていたんです」
「そう」と謎は意味のある顔つきをした。
「池の緋鯉(ひごい)()ねますよ」と我は飽くまでも主張する。なるほど濁った水のなかで、ぽちゃりと云う音がした。
「おやおや。――御母(おっか)さんの部屋では少しも聞えないよ」
 聞えないんではない。謎で夢中になっていたのである。
「そう」と今度は我の方で意味のある顔つきをする。世はさまざまである。
「おや、もう(はす)の葉が出たね」
「ええ。まだ気がつかなかったの」
「いいえ。今(はじめ)て」と謎が云う。謎ばかり考えているものは迂濶(うかつ)である。欽吾と藤尾の事を引き抜くと頭は真空になる。蓮の葉どころではない。
 蓮の葉が出たあとには蓮の花が咲く。蓮の花が咲いたあとには蚊帳(かや)を畳んで蔵へ入れる。それから蟋蟀(こおろぎ)が鳴く。時雨(しぐ)れる。木枯(こがらし)が吹く。……謎の女が謎の解決に苦しんでいるうちに世の中は変ってしまう。それでも謎の女は一つ所に(すわ)って謎を解くつもりでいる。謎の女は世の中で自分ほど賢いものはないと思っている。迂濶だなどとは夢にも考えない。

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