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虞美人草 十二 (17)

时间: 2021-04-17    进入日语论坛
核心提示: 緋鯉ががぽちゃりとまた跳ねる。薄濁(うすにごり)のする水に、泥は沈んで、上皮だけは軽く温(ぬる)む底から、朦朧(もうろう)と
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 緋鯉ががぽちゃりとまた跳ねる。薄濁(うすにごり)のする水に、泥は沈んで、上皮だけは軽く(ぬる)む底から、朦朧(もうろう)(あか)い影が静かな土を動かして、浮いて来る。(なめ)らかな波にきらりと射す日影を(くず)さぬほどに、尾を()っているかと思うと、思い切ってぽんと水を(たた)いて飛びあがる。一面に(あが)る泥の濃きうちに、(かす)かなる朱いものが影を潜めて行く。温い水を背に押し分けて去る(あと)は、一筋のうねりを見せて、去年の(あし)を風なきに(なぶ)る。甲野さんの日記には鳥入(とりいって)雲無迹(くもにあとなく)魚行(うおゆいて)水有紋(みずにもんあり)と云う一聯が律にも絶句にもならず、そのまま楷書(かいしょ)でかいてある。春光は天地を(おお)わず、任意に人の心を(よろこ)ばしむ。ただ謎の女には(さいわい)せぬ。
「何だって、あんなに跳ねるんだろうね」と聞いた。謎の女が謎を考えるごとく、緋鯉もむやみに跳ねるのであろう。酔狂(すいきょう)と云えば双方とも酔狂である。藤尾は何とも答えなかった。
 浮き立ての蓮の葉を称して支那の詩人は青銭(せいせん)を畳むと云った。(ぜに)のような重い感じは無論ない。しかし水際に始めて昨日、今日の(わか)い命を托して、娑婆(しゃば)の風に薄い顔を(さら)すうちは銭のごとく細かである。色も全く青いとは云えぬ。美濃紙(みのがみ)の薄きに過ぎて、重苦しと(みどり)(いと)う柔らかき茶に、日ごとに(おか)緑青(ろくしょう)を交ぜた葉の上には、鯉の(おど)った、春の名残が、吹けば飛ぶ、置けば崩れぬ(たま)となって転がっている。――答をせぬ藤尾はただ眼前の景色を(なが)める。鯉はまた躍った。
 母は無意味に池の上をていたが、やがて気を換えて
「近頃、小野さんは来ないようだね。どうかしたのかい」と聞いて見る。
 藤尾は(きっ)と向き直った。
「どうしたんですか」とじっと母を見た上で、澄してまた庭の方へ(ひとみ)()らす。母はおやと思う。さっきの鯉が薄赤く浮葉の下を通る。葉は気軽に動く。
「来ないなら、何とか云って来そうなもんだね。病気でもしているんじゃないか」
「病気だって?」と藤尾の声は疳走(かんばし)るほどに高かった。
「いいえさ。病気じゃないかと聞くのさ」
「病気なもんですか」

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