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虞美人草 十四 (4)

时间: 2021-04-17    进入日语论坛
核心提示:「ええ、君らも行ったそうですね」と小野さんは何気なく答えた。甲野(こうの)さんは見つけても知らぬ顔をしている。藤尾は知らぬ
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「ええ、君らも行ったそうですね」と小野さんは何気なく答えた。甲野(こうの)さんは見つけても知らぬ顔をしている。藤尾は知らぬ顔をして、しかも是非共こちらから白状させようとする。宗近君は(むこう)から正面に質問してくる。小野さんは何気なく答えながら、心のうちになるほどと思った。
「あれは君の何だい」
「少し猛烈ですね。――(もと)の先生です」
「あの女は、それじゃ恩師の令嬢だね」
「まあ、そんなものです」
「ああやって、いっしょに茶を飲んでいるところを見ると、他人とは見えない」
「兄妹と見えますか」
「夫婦さ。好い夫婦だ」
「恐れ入ります」と小野さんはちょっと笑ったがすぐ眼を(そら)した。向側(むこうがわ)硝子戸(ガラスど)のなかに金文字入の洋書が燦爛(さんらん)と詩人の注意を(うな)がしている。
「君、あすこにだいぶ新刊の書物が来ているようだが、見ようじゃありませんか」
「書物か。何か買うのかい」
「面白いものがあれば買ってもいいが」
「屑籠を買って、書物を買うのはすこぶるアイロニーだ」
「なぜ」
 宗近君は返事をする前に、屑籠を提げたまま、電車の間を向側へ()け抜けた。小野さんも小走(こばしり)()いて来る。
「はあだいぶ奇麗な本が陳列している。どうだい欲しいものがあるかい」
「さよう」と小野さんは腰を屈めながら金縁の眼鏡(めがね)を硝子窓に()り寄せて余念なく見取れている。
 小羊(ラム)の皮を柔らかに(なめ)して、木賊色(とくさいろ)の濃き真中に、水蓮(すいれん)を細く金に(えが)いて、(はなびら)の尽くる(うてな)のあたりから、直なる線を底まで通して、ぐるりと表紙の周囲を(まわ)らしたのがある。背を平らに()って、深き(くれない)に金髪を一面に()わせたような模様がある。堅き真鍮版(しんちゅうばん)に、どっかと(クロース)の目を(つぶ)して、重たき(はく)楯形(たてがた)に置いたのがある。素気(すげ)なきカーフの背を鈍色(にびいろ)に緑上下(うえした)に区切って、双方に文字だけを(ちりば)めたのがある。ざら目の紙に、(ひん)よく朱の書名を配置した(とびら)も見える。
「みんな欲しそうだね」と宗近君は書物を見ずに、小野さんの眼鏡ばかり見ている。

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