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虞美人草 十四 (14)

时间: 2021-04-20    进入日语论坛
核心提示:「ええ五年目です」「五年目でも、十年目でも、こうして一つ所に住むようになれば結構さ。――小夜も喜んでいる」と後から継(つ)
(单词翻译:双击或拖选)
「ええ五年目です」
「五年目でも、十年目でも、こうして一つ所に住むようになれば結構さ。――小夜も喜んでいる」と後から()ぎ足したように一句を付け添えた。小野さんは早速(さそく)の返事を忘れて、暗い部屋のなかに(すくま)るような気がした。
「さっき御嬢さんが御出(おいで)でした」と仕方がないから渡し込む。
「ああ、――なに急ぐ事でも無かったんだが、もしや暇があったらいっしょに連れて行って買物をして貰おうと思ってね」
「あいにく出掛(でが)けだったものですから」
「そうだってね。飛んだ御邪魔をしたろう。どこぞ急用でもあったのかい」
「いえ――急用でもなかったんですが」と相手は少々言い(よど)む。先生は追窮しない。
「はあ、そうかい。そりゃあ」と漠々(ばくばく)たる挨拶(あいさつ)をした。挨拶が漠々たると共に、部屋のなかも朦朧(もうろう)取締(とりしまり)がなくなって来る。今宵は月だ。月だが、まだ()がある。のに日は落ちた。(とこ)は一間を申訳のために濃い(あい)の砂壁に塗り立てた奥には、先生が秘蔵の義董(ぎとう)(ふく)が掛かっていた。唐代の衣冠(いかん)蹣跚(まんさん)(くつ)を危うく踏んで、だらしなく腕に巻きつけた長い袖を、童子の肩に(もた)した酔態は、この家の(さび)しさに似ず、春王(はるおう)の四月に(かな)う楽天家である。仰せのごとく額をかくす(かんむり)の、黒い色が著るしく目についたのは今先の事であったに、ふと見ると、(ひも)か飾か、紋切形に左右に流す幅広の絹さえ、ぼんやりと近づく(よい)を迎えて、来る夜に(まぎ)れ込もうとする。先生も自分もぐずぐずすると一つ穴へはまって、影のように消えて行きそうだ。
「先生、御頼(おたのみ)洋灯(ランプ)の台を買って来ました」
「それはありがたい。どれ」
 小野さんは薄暗いなかを玄関へ出て、台と屑籠(くずかご)を持ってくる。
「はあ――何だか暗くってよく見えない。灯火(あかり)()けてから(ゆっ)くり拝見しよう」
「私が()けましょう。洋灯(ランプ)はどこにありますか」
「気の毒だね。もう帰って来る時分だが。じゃ椽側へ出ると右の戸袋のなかにあるから頼もう。掃除はもうしてあるはずだ」
 薄暗い影が一つ立って、障子(しょうじ)をすうと明ける。残る影はひそかに手を(こまぬ)いて動かぬほどを、夜は(おそ)って来る。六畳の座敷は(さみ)しい人を陰気に封じ込めた。ごほんごほんと咳をせく。

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