きさらぎまで梅の花咲き侍らざりける年、よみ侍りける
39 知るらめや霞の空をながめつつ花もにほはぬ春を嘆くと
中務
【通釈】
39 梅の花よ、わかっているのか、霞む空をじっと見つめながらお前がまだ匂わない春を嘆いていると。○きさらぎ 陰暦二月。普通ならば梅は咲いている。○知るらめや 梅に呼び掛けていう。○花もにほはぬ春 参考「春立てど花も匂はぬ山里はものうかる音(ね)に鶯ぞ鳴く」(古今·春上·在原棟梁)。▽公任集に、庭前の梅に結び付けてあったとして載る歌。藤原公任の返歌は「おぼつかないづこなるらむ花咲かぬ霞の空の鶯の声」、前田家本伝西行筆中務集にも見えるが、その部分は公任集が誤って入ったものと考えられる。新古今撰者はこの本により、作者を中務と誤認したか(森本元子説)。正しくは「読人しらず」とすべき歌で、作者は公任と同時代の人。