「アイアイサ~どうした小姐~」
「このお菓子がうまくレジを通らないのよ。どうしてかしら」
「どれ。貸してみろ。スカッ。スカッ。……アレ。ほんとだなあ。スカッ。ダメだなぁ。スカッ。通らないなあ」
レジ係おばさんと上役おじさんは、2人してクリスプチョコレートを手にああでもないこうでもないとセンサーにかざし行ったり来たりさせている。ちょっとっ、そのお菓子はオレの物になるんだから、そんなに無茶な格好させないでよ。あんまり激しい動きを加えると、クリスピーがパラパラとこぼれ落ちてしまうでしょっ! あなたたちと違って繊細に出来てるんだからクリスプチョコレートは!
「あのーおふたりさん、お客の僕がずっと待ってるんですけどね。一般的にそういう場合は諦めて手入力で金額を打ち込みませんか? 知ってるんですよ僕そういう仕組み。独身男子はスーパーマーケットで買い物をする機会が多いんですから」
「ウェイ、ちょっと待つのだ」
すると支配人はレジから出たと思ったらチョコレートが陳列されていた棚まで行き何やら観察し、次に裏の事務所に引っ込んだと思ったらしばらくのちに出てきてレジに舞い戻った。そして、レジ係おばさんと何やらオレに理解出来ない謎の言葉(レジ語?)で話している。
話が一段落つくと、今度はおばさんがオレに身振り手振りを交えてペラペラと訴えて来た。なんだろう? 集中して聞いてみようか。
「なになに? クリスプチョコレートはレジに置いて? 菓子パンと魚肉ソーセージとお茶、今日はこれだけ買って、帰りなさい? なるほど~そうですか。今日はチョコレートは諦めてそれ以外のものだけ買えばいいんですね。って待たんかい。そんなもので納得するわけないでしょうが。オレにとってクリスプチョコレートは魚肉ソーセージと同じくらい、いやそれ以上に大切なんだ。買って帰るぞ! よこせってんだ!!」
「わからない子だねえ。今日はダメなの。買えないの」
おーい、何言ってるんだこの人! 買えないって、そんなわけないだろ! だって、ちゃんと商品棚に陳列されていたクッキーなんだぞ? 決して陳列前の業務用ワゴンからこっそり抜いて来たんじゃない。そんなマナー違反はしていないよ。オレだって客としての立場はわきまえているんだよ。それを踏まえてこのクリスプチョコレート、これはたしかに商品として棚に並べられていたもので、ということは即ち、当たり前のことだがそれは客が買う権利のあるお菓子だということじゃないか。それなのに「これはまだ売れない、魚肉ソーセージとお茶だけ持って帰れ」とは何事だ。あんたのレジ係としてのプライドはそんなもんなのかよ。レジ係に、誇りを持っているんじゃなかったのかよ!