昔の中国では、実際の暮らしの経験から円の周長は「円の直径のおよそ3倍」としている。ただし、いったいどれほの差があるのかについては意見が一致しなかった。祖沖之より先に、中国の数学者・劉徽は円周率計算の科学的方法―「割円術」をあみだし、円に内接する正多角形の周長で円の周長に近づき、この方法によって、小数点後の4桁まで計算した。祖沖之はさらに研究を重ね、繰り返して演算し、円周率を小数点後の7桁(すなわち3.1415926と3.1415927の間)まで突き止めたほか、円周率の分数形式の約率も得た。祖沖之はいったいどんな方法でこの結果を出したのか、今ではそれを知ることはできない。もし劉徽の「割円術」のやり方で求めようとするならば、円に内接する正16000多角形まで計算しなければならないのである。一体どれほどの時間と努力を費やしたのであろうか。
祖沖之が計算した円周率と等しい値を外国の数学者が得たのは、それから1000年後のことである。祖沖之の優れた貢献を称えるため、一部の外国数学者は円周率の記号 πを「祖率」と読むべきだと提案した。円周率計算のほか、祖沖之は息子と共に非常に巧みな方法で球体体積の計算問題を解決した。当時彼らが採用した原理は、西側諸国でカヴァリエリの原理と呼ばれるものであるが、祖沖之から1000年後にやっとイタリアの数学者・カヴァリエリによって発見された。祖沖之親子による発見を記念し、この原理は「祖原理」とも呼ばれている。