「これ使ってごらん」。2年ほど前、散髪を終えて帰り際、洗髪用ブラシを渡された。何の変哲もない円形の塩化ビニール製のブラシだが、使ってみると心地よく、いつか習慣になった。一年も過ぎたころ、Kさんがボソリという。「てっぺんの辺り、また濃くなったね。あのブラシ使ってんでしょ」。ヒヤリとした。なるほど、そういうことだったのか。
自分の体の一部だが、頭髪の変化にはなかなか気付かない。ましてや頭頂部など。頭は家族にもめったに触らせない。腕のよい理髪師さんに出会った幸運に感謝するばかりだ。
本人も気付かない欠点を、そっと指摘してくれる善意の第三者のありがたさ。「こういうことは、髪の毛ばかりじゃないかもな」。せっせと洗髪ブラシを掛けながら、自らの日ごろの言動を省みるのである。
(高橋努「自分ではわからない」2008年9月16日付け毎日新聞「憂楽帳」による)
1、「そういうこと」とあるが、何を指しているか。
①Kさんが店のブラシを宣伝しようとしたこと。
②筆者の髪の毛が薄くなっていたこと。
③Kさんが筆者の髪の毛のためにブラシを渡したこと。
④Kさんが筆者が隠したがっている欠点を知っていたこと。
2、「自らの日ごろの言動を省みる」とはどういうことか。
①Kさんの行動に憤慨した自分のことを反省すること。
②自分はKさんのような人になっているのか反省すること。
③自分の周りにKさんのような人がいるか考えてみること。
④自分の周りの人にKさんのような人を紹介しなかったことを反省すること。
3、本文の内容として正しいものはどれか。
①Kさんは筆者が髪の毛が薄くなったことを気にするのをみて洗髪用ブラシを渡した。
②Kさんは筆者と20歳からの長い付き合いで、20年以上、頭髪の世話を焼いてくれた。
③筆者は自分の欠点である頭を家族にも触らせないようにしていた。
④筆者は自分の欠点を振り返るきっかけを作ってくれた理髪師に感謝している。