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同じような資料は多いので、たまたま最近目に触れた事例の一つを取り上げてみよう。中国南部の少数部族ヤオ（瑤）の族の一つ、巴馬瑤族の人たちの暮らす村々は百歳をこえて元気な人たちの多い地域として知られるが、調査の対象となった百五歳の男性は、長生きの原因は「悩みがないことだろう」と言っている。県の「老齢委員会」は長寿の原因を、「1、温暖な気候と汚染のない空気。2、食物が自然のもので、低脂肪、高栄養である。3、長年の畑仕事で体が鍛えられ、飲酒、喫煙率が少ない」ことを挙げている（朝日新聞1995年9月4日記事）。この巴馬瑤族の地域の一人あたり平均年収は4800円（1995年）で、一日あたり0.13ドルくらいである。
アメリカの原住民のいくつかの社会の中にも、それぞれに違ったかたちの、静かで美しく、豊かな日々があった。彼らが住み、あるいは自由に移動していた自然の空間から切り離され、共同体を解体された時に、彼らは新しく（ ア ）となり、（ イ ）になった。経済学の測定する「所得」の量は、このとき以前よりは（ ウ ）なっていたはずなのにである。
貧困は、金銭を持たないことにあるのではない。金銭を必要とする生活の形式の中で、金銭を持たないことにある。（ A ）人々の生がその中に根を手に入れることのできない生活の形式の中に投げ込まれる時、「所得」の多寡が人々の豊かさと貧困、幸福と不幸の尺度として立ち現れるのである。この二重の疎外こそが貧困の概念なのである。
人はこのことを一般論としては認めるだけでなく、当たり前のことだと言うかもしれない。けれども、「南の貧困」や南の「開発」を語る多くの言説は、実際上、この当たり前のことを理論の基礎として立脚していないので、認識として的を失するだけでなく、政策としても方向を誤るものとなる。もちろん、一日に一ドル以下しか所得のない人が、世界中に一二億人もいるというような言説は、善い意図からされることが多いし、当面はよい政策の方に力を与えることもできるが、原理的には誤っているし、長期的には不幸を増大するような、開発主義的な政策を基礎づけてしまう恐れがある。巴馬瑤族の人達もアマゾンの多くの原住民も、この「一日一ドル以下」の所得しかない一二億人に入っているが、彼らの「所得」を「一ドル以上」とするに違いない開発政策によって、不幸を増大する可能性の方が現実にははるかに大きいからである。
（見田宗介「現代社会の理論情報化・消費化社会の現在と未来」より」
1、「同じような資料は多い」とあるが、どのような資料が多いのか。
①世界銀行の分類に基づき、世界の貧困地域の分布を表した資料。
②世界銀行が極貧層とした人々の住む地域と人口動態を調査した資料。
③世界銀行が極貧層とした人々の生活が必ずしも不幸ではないことを表す資料。
④開発主義が世界銀行が極貧層とする人々を生み出したことを表す資料。
2、ア～ウに入る語の組み合わせとして、最も適当なのはどれか。
①ア：不幸 イ：貧困 ウ：多く
②ア：幸福 イ：豊か ウ：多く
③ア：不幸 イ：貧困 ウ：少なく
④ア：幸福 イ：豊か ウ：少なく
3、（ A ）に入るものとして、最も適当なのはどれか。
①ただし
②すると
③いわば
④つまり
4、「この二重の疎外こそが貧困の概念である」とあるが、「二重の疎外」とはどういうことか。
①貨幣経済の中に無理矢理組み込まれた上に、僅かな所得しか得られない状況に置かれていること。
②開発政策によって、自然の中での自給自足の経済が壊され、貨幣経済の中に無理矢理組み込まれたこと。
③自給自足の貧しい経済から抜け出すことできず、貨幣経済へと移行することに失敗したこと。
④開発政策によって豊かな自然を奪われた人々が、貨幣経済にも移行できずに貧しい生活を強いられていること。
5、「この当たり前のこと」とあるが、それはどういうことか。
①貧困は、開発主義的な政策が人為的に生み出したものであること。
②極貧層とされる人々の生活の方が、高所得の人々の生活よりも豊かなこと。
③貨幣経済に組み込まれることで、「南の貧困」は増大したこと。
④貧困は、金銭を必要とする生活の形式の中で金銭を持たないことにあること。
6、「政策としても方向を誤るものとなる」とあるが、どんな誤りを犯すのか。
①所得の多寡だけで、人の幸不幸を判断するような誤った考えを生む。
②大規模な環境破壊をもたらすような開発政策を正当化することになる。
③所得さえ増やせば幸せになれると考え、開発主義的な政策に走らせる。
④貨幣経済への移行を遅らせ、「南の貧困」を解決するための開発を妨げる。
