FAとは、生物のからだのいろいろな部分の対称性が、理想的な対称から微妙にずれている度合いを表す。これが、行動生態学とどんな関係があるのだろう?手足や顔ような左右対称の構造は、本来、遺伝子にははっきり対称になるように設計されているはずだが、発生の途上のさまざまな悪条件や事故、疾病などによって、本来の完全な対称は達成されないことが多い。
そこで、①これらの構造に関して、きちんと対称になっている個体がいたとしたら、その対称性は、発生途上の厳しい条件にもかかわらず達成されたのだから、その個体が遺伝的に非常に強いことを物語っているのかもしれない。そうだとすると、➁雌は、配偶者の選り好み(えりごのみ)をする時に、雄の形質の対称性のゆらぎに注目しているかもしれないのである。
これまで、昆虫の左右の四枚の羽、鳥の左右の羽、魚の左右の鰭(ひれ)などに関して、③FAの少ない個体、すなわち、より完全な対称に近い個体ほど繁殖成功度が高いことが、いろいろな種でみつかっている。
しかし、これらは二つの意味がある。鰭や羽は、実際にその生物が暮らしていく上で重要な器官であり、それは対称であるほど効率よく働く。ツバメの尾羽(おは)には、左右二本だけ一つずつと長い羽があるが、それが左右対称でなければ、飛翔(ひしょう)に支障がでる。そこで、そのような、実際の生活上で機能している器官が対称である個体は、異性にもてるかどうかとは別に、生存率や寿命の上で有利であるはずだ。
一方、クジャク(孔雀)の大きな飾り羽で代表されるような、雌に対する求愛(きゅうあい)の小道具の役割だけを果たしている器官には、実際の生活上の機能はない。つまり、飾り羽が左右対称でなくても、飛んだり走ったりすることに支障はないのである。それにもかかわらず、そのような器官も対称に作られていることが多い。④それは、その器官のFAに着目して、雌が雄を選んできたからなのだろうか?
このことに関しては、まだ決着がついていない。器官の対称性が、雌の配偶者選びの重要な指標になっているかどうかも、対称性が本当に遺伝的な強さを表しているのかどうかも、まだ、論争の余地がある。私たちも、最近、クジャクの羽のFAと繁殖成功との関係を研究しているが、決定的な結論は得られていない。
「問い」①「これら」とは何を指しているか。
1 さまざまな悪条件を作る構造
2 本来の完全な対称が達成されなかった構造
3 手や足のような左右対称の構造
4 微妙に対象性がずれた構造
「問い」➁「雌は、配偶者の選り好みをする時に、雄の形質の対称性のゆらぎに注目しているかもしれないのである」といっているが、筆者はなぜこう思うのか。
1 対象性のゆらぎの多いものほど遺伝的に強いと考えられるから
2 正確に左右対称の個体は遺伝的に強いと考えることができるから
3 正確に左右対称であるなしにかかわらず、雌は好きな雄を選ぶから
4 正確に左右対称であっても、遺伝的に強いとは考えにくいから
「問い」③「FAの少ない個体」とはどんな個体か。
1 対称性のずれがない個体
2 対称すぎて魅力が少ない個体
3 対称性のずれが少ない個体
4 対称性のゆらぎが大きい個体
「問い」④「それは、その器官のFAに着目して、雌が雄を選んできたからなのだろうか」と筆者が考えるのはなぜか。
1 すべての器官が左右対称になっているとはいえないから
2 求愛の小道具の器官が左右対称になっていないから
3 生活上で機能している器官が左右対称になっているから
4 求愛の小道具の器官が左右対称になっているから
多くの生物は左右対称のからだの構造をもっている。私たち人間の顔の作りや手足ども鳥の羽や昆虫の手足や羽も、左右対称になっていることが多い。これらの構造は、理想的には対象になるはずなのだが、実際は、細かく見れば本当に対称ではない。たとえば、誰の顔を見ても、目、鼻、口、眉の造作に多少の左右のずれはあるものだ。