人食い婆とおつなの頭
昔 々むかし、ある所ところに、おつなという女おんなと、その婿むこが住すんでいました。ある日ひ、婿むこは仕事しごとで遠とおくへ行いく事ことになりました。「なるべく早はやく戻もどって来くるから、しっかり留守るすを頼たのんだぞ。」婿むこが出でかけた後あと、おつなは一人ひとりで縄なわを編あんでいました。
するとそこへ見知みしらぬお婆ばあさんがやって来きて、おつなの編あんでいる縄なわをいろりにくべた [1] のです。「なっ、何なにをするんだよ!」おつなが止とめても、お婆ばあさんは知しらん顔かおです。そのうちに燃もえてしまった縄なわの灰はいを、お婆ばあさんはムシャムシャと食たべ [2] 始はじめたではありませんか。
「…!」おつなはびっくりして逃にげ出だそうとしましたが、体からだが震ふるえて立たちあがる事ことも出来できません。「ヒッヒヒヒ、そんなら、明日あしたの今頃いまごろ、また来くるでな。」お婆ばあさんは灰はいだらけの口くちでニヤリと笑わらい、外そとへ出でて行いきました。
次つぎの日ひ、おつなは怖こわくて仕事しごとも手てにつきません [3] 。お婆ばあさんが来くる頃ころになると、カヤの実みを三粒持さんつぶもって、二階にかいのつづら [4] の中なかへ隠かくれました。やがて、お婆ばあさんがやってきました。「おや、いないのか?」しばらくいろりの周まわりを歩あるいていたお婆ばあさんは、階段かいだんを登のぼり始はじめました。
おつなは、お婆ばあさんを驚おどろかそうとして、カチン!と、カヤの実みを噛かみました。お婆ばあさんは、その音おとにハッとして足あしを止とめます。「はて、何なんの音おとかな?」それでもお婆ばあさんは、階段かいだんを登のぼってきます。
おつなはもう一度いちど、カヤの実みを口くちに入いれて、カチン!と、噛かみました。「何なんだか、嫌いやな音おとだね。」でも言いうだけで、足あしを止とめようともしません。足音あしおとが、どんどん近ちかづいてきます。おつなは、怖こわくて怖こわくて息いきが詰つまり [5] そうです。「お願ねがい!あっちへ行いって!」おつなは思おもいきって最後さいごのカヤの実みを噛かんで鳴ならしましたが、もう、お婆ばあさんはびくともしません。「ふふふ、におうぞ、におうぞ。」お婆ばあさんは二階にかいに来きて、そこら中なかを嗅かぎまわりました。
「ああ、もう駄目だめ!」おつながつづらの中なかで手てを合あわせた時とき、がばっと、蓋ふたが開ひらいたのです。「おおっ、いた、いた。今日きょうは、お前まえを食くいに来きたよ。」お婆ばあさんはおつなを引ひきずり出だすと、足あしからムシャムシャ食たべ始はじめて、あっという間まに体からだのほとんどを食たべてしまいました。
でも不思議ふしぎな事ことに、おつなは死しなずに、まだ生いきていました。「ああ、うまかった。残のこりは明日あしたにとっておこう。」お婆ばあさんは頭あたまだけになったおつなを戸棚とだなの中なかへしまうと、ゆっくり家いえを出でて行いきました。
次つぎの日ひの朝あさ、そんな事こととは夢ゆめにも知しらない [6] 婿むこが、家いえに戻もどってきました。「おつな、今帰いまかえったぞ。…おい、おつな!」いくら呼よんでも、返事へんじがありません。
「おかしいな。」家中いえじゅうを探さがしても、やっぱりいません。「それにしても、腹はらが減へった。」そう思おもって、なにげなく戸棚とだなを開あけて見みると、何なんとおつなの頭あたまが棚たなに乗のっていて、うらめしそうにジッと睨にらんでいるのです。「うえっ!」びっくりした婿むこが転ころがるように逃にげ出だすと、おつなの頭あたまがコロコロと転ころがってきて、婿むこの胸むねにかぶりつきました。
婿むこは仕方しかたなく、おつなの頭あたまを抱かかえたまま外そとへ飛とび出だしました。すると、おつなの頭あたまが言いったのです。「お前まえさん、わたしを置おいて逃にげるつもりかい?」「と、とんでもない!お前まえは、おらの可愛かわいい女房にょうぼうだ!」「そんなら、わたしにご飯 はんを食 たべさせておくれよ 。」婿むこは仕方しかたなく、人ひとに見みえないようにおつなの頭あたまを抱いだいて宿屋やどやへ行いき、二階にかいに部屋へやを取とって料理りょうりを運はこんでもらいました。
おぜんの前まえに座すわったとたん、おつなの頭あたまがおぜんの上うえに飛とび降おりて、「さあ、食たべさせておくれ」と、口くちを開ひらいたのです。いくら可愛かわいい女房にょうぼうでも、気味きみが悪わるくてがまん出来できません。「勘弁かんべんしてくれ!」婿むこはいきなりおつなの頭あたまにお鉢はちを被かぶせて上うえから帯おびを巻まきつけると、そのまま階段かいだんをかけ降おりて、いっきに外そとへ飛とび出だしました。
「お客きゃくさん、何事なにごとですか?」驚おどろいた宿屋やどやの人ひとが追おいかけようとしたら、二階にかいからお鉢はちを被かぶせられた女おんなの頭あたまが転ころがってきます。「お、お化ばけ!」そう言いったきり、宿屋やどやの人ひとは気きを失うしないました。
おつなの頭あたまは宿屋やどやから転ころがり出でて、婿むこを追おいかけました。
「た、た、助たすけてくれー!」婿むこは叫さけびながら、必死ひっしに走はしり続つづけます。どこをどう走はしっているのか、まったく分わかりません。「お前まえさーん!お前まえさーん!」おつなの声こえが、すぐ後うしろから追おってきます。
「もう駄目だめだ!」はっと気きがつくと、目めの前まえに菖蒲しょうぶとヨモギの生はえた草くさむらがありました。婿むこは夢中むちゅうで、その草くさの中なかへ倒たおれ込こみました。すると、どうでしょう。
草くさむらの前まえまで追おってきたおつなの頭あたまが、悔くやしそうに、「くそっ!菖蒲 しょうぶやヨモギさえなかったら 。」と、言いって、元来もときた方ほうへ転ころがっていったのです。
「やれやれ、助たすかった。それにしても、菖蒲しょうぶやヨモギが魔除まよけ [7] になるのは本当ほんとうだったんだな。」婿むこは、ほっとして立たち上あがりました。そして菖蒲しょうぶとヨモギをたくさん採とって帰かえり、家いえの窓まどや戸と口ぐちに挿さしておくことにしたのです。おかげで人食ひとくい婆ばあも、おつなの頭あたまも、二度にどと家いえへはやってきませんでした。
今いまでも五月五日ごがついつかに、菖蒲しょうぶやヨモギを軒下のきしたに挿さすのは、人食ひとくい鬼おにや魔物まものを追おい払はらうためだそうです。
[1] 「くべる」,动词。放入,添加。
[2] 「ムシャムシャと食べる」,狼吞虎咽地吃,大口大口地吃。
[3] 「手につかない」,心不在焉,无法专心于(某事)。
[4] 「つづら」,名词。衣箱。
[5] 「息が詰まる」,呼吸困难,紧张得喘不过气来。
[6] 「夢にも知れない」,做梦也想不到。
[7] 「魔除け」,名词。辟邪,驱邪,辟邪物。
吃人老婆婆和阿网的头
很 久以前,某个地方有个叫阿网的女人和她的丈夫住在一起。有一天,丈夫因为工作要出门远行,他对阿网说:“我会尽早回来的,那就拜托你好好地看家啦。”丈夫出门后,阿网便一个人在家编绳子。
这时候,一位素未谋面的老婆婆突然走过来,把阿网编织的绳子投入火炉中。“啊!你在干什么呀?”阿网连忙阻止,可是老婆婆却摆出一副若无其事的样子。然后,老婆婆突然开始狼吞虎咽地吃那绳子燃烧后剩下的灰烬。
阿网惊吓得发不出声音,正当她想逃脱时,却觉得身体颤抖得无法站立起来。“嘻嘻嘻!那么,明天的这个时候,我还会来哦。”老婆婆张开满是灰的口,冷笑着离开了。
第二天,阿网因为非常害怕,所以无法集中精神做事。快到老婆婆说来的时辰了,阿网拿起三颗香榧的果实,躲进了二楼的衣箱里。不久,老婆婆来了。“哎呀?不在吗?”老婆婆绕着火炉走了一阵子后,开始爬楼梯上去。
阿网想要吓唬老婆婆,便“咔嚓”地啃起果实来。老婆婆听到声音后马上停住了脚步,“哎呀?那是什么声音啊?”说着,老婆婆又继续爬楼梯。
阿网再一次把香榧的果实放进口里,“咔嚓”地咬了一下。“这真是令人不快的声音啊!”老婆婆虽然这样说,却没有停下步伐。脚步声音逐渐靠近了。阿网非常害怕,连气都喘不上来,心里默默念道:“求求你!到那边去吧!”
阿网用力把最后一颗果实给咬出声来。但是,老婆婆却没有因此被吓到。“呼呼,很香啊。
很香啊。”老婆婆一边说一边来到二楼,在那里四处闻着探寻。
“啊!糟糕!”阿网在衣箱里双手合十的时候,“啪”地一声,箱盖子被打开了。“哈哈!找到啦,找到啦。今天我就是为了吃你而来的。”老婆婆说着把阿网硬拉出来,从脚开始狼吞虎咽地吃起来,一会儿功夫便差不多把阿网的整个身子都吃完了。
但奇怪的是,阿网竟然还活着。“啊!真好吃。剩下的明天再回来吃吧。”老婆婆边说边把阿网剩下的头部藏在柜橱,慢慢悠悠地离开了阿网家。
第二天早晨,丈夫回家了。他根本没想到发生了这么可怕的事情,大声喊道:“阿网!我回来啦。喂!阿网!”可无论他怎样呼喊,也没有听到阿网的答复。
“真奇怪呀!”丈夫说着,把家里找了个遍,却也没有阿网的身影。“先不管了,我肚子很饿了。”丈夫这样想着,无意中打开了柜橱,想看看里面有什么可吃的。可是,他发现柜橱里竟然放着阿网的头,她的目光似乎怀着怨恨正死死地瞪着自己。“啊!”受到惊吓的丈夫跌跌撞撞地想逃走,可阿网的头“咕噜咕噜”地转了起来,一下子咬住了丈夫的胸口。
丈夫没有办法,只好抱着阿网的头飞奔出去。这时,阿网的头开始说话了:“相公,你就打算把我这样丢下自己逃走吗?”“不。不是啊!你可是我那可爱的妻子啊!”丈夫战战兢兢地回答。“那么,你就喂我吃饭吧。”阿网说。丈夫没有办法,只好躲着人抱着阿网的头走向旅馆,他在二楼要了个房间,又点了些饭菜。
丈夫在菜肴前一坐下,阿网的头便飞过来,降落在菜肴的上面。“喂、喂我吃。”阿网说着,便张开了嘴。即使再可爱的妻子,只剩下一个脑袋,也着实太可怕了吧。“你就饶了我吧!”说着,丈夫突然把饭钵扣在阿网的头上,并用带子缠上,然后飞奔下楼,一口气夺门而出。
“客官,这是怎么了?”被阿网丈夫的奇怪行为吓了一跳的店员正想追出去问个究竟,只见一个扣着饭钵的女子的头颅从二楼“咕噜咕噜”地滚下来。“啊!妖怪!”店员惊叫一声,便失去了知觉。
阿网的头从旅馆滚出来,一直追着丈夫。“救、救、救救我呀!”丈夫一边叫喊,一边拼命地继续跑着。他完全不知道该往哪里走才好。“相公!相公!”阿网紧追不舍。
“我已经不行啦!”丈夫跑得气喘吁吁。等回过神来,发现眼前是长满菖蒲和艾草的草丛。
丈夫两眼一黑,倒入草丛中。接下来会怎样呢?
阿网的头一直追到草丛前,非常懊恼地说:“气死我了!这里有菖蒲和艾草就麻烦了。”说完,就往原本来的地方滚回去了。
“哎呀!哎哟!这可救我一命啦。看来菖蒲和艾草真的是辟邪之物呀。”丈夫边说边放心地站了起来。然后他拔了很多菖蒲和艾草回去,插在了自家的窗户和门口。因此吃人婆婆和阿网的头就再也没来过了。
直到现在,每到五月五日,人们也会为了驱赶吃人鬼怪,在房檐下插菖蒲和艾草。
语法详解
(1)動詞の使役態+さ(せ)ておくれ/さ(せ)てください表示“请允许我……”的意思。
* そんなら、わたしにご飯を食べさせておくれよ。
那么,你就给我喂饭吃吧。
* 明日休ませておくれ。
请允许我明天休息。
* 私は会長職を辞めさせてください。
请允许我辞去会长的职务。
(2)形容詞の連用形+さえなかったら
表示“只要不……就……”的意思。也用“……さえなければ”的形式。
* あまり遠くさえなかったら、子供たちを連れて行ってもかまわない。
只要不太远,就可以带孩子去。
* 寒くさえなかったら、わざわざオーバーを持ってゆく必要はない。
只要不冷,就没必要把那大衣拿出来。
小知识
菖蒲
サトイモ科の多年生草木。葉は長剣状で80センチメートル余。初夏、花茎の中程に黄緑色の小花を棒状に密生。中国では古来より、ショウブの形が刀に似ていること、邪気を祓うような爽やかな香りを持つことから、縁起の良い植物とされ、家屋の外壁から張り出した軒に吊るしたり、枕の下に置いて寝たりしていた。日本でも、奈良時代の聖武天皇の頃より端午の節句に使われ始め、武士が台頭してからは「しょうぶ」の音に通じるので「尚武」という字が当てられるようになる(勝負にも通じる)。根茎を乾して「菖蒲根」と呼び健胃薬とする。古くは「あやめ」と呼んだが、アヤメ科のアヤメ·ハナショウブの類とは葉の形が似るだけで、全くの別種。
菖蒲
天南星科多年生草本植物,叶为长剑状,高约80厘米。初夏,花茎中部结淡黄色肉穗花序。因为叶长似剑,又有可祛除邪气的芳香,在中国,菖蒲自古就是代表好兆头的植物,常被悬挂于房屋外墙或者置于枕下。在日本,菖蒲自奈良时代圣武天皇时期开始用于端午节,当时适逢武士的兴起,因发音相同也写作“尚武”(也通“胜负”)。晒干的根茎称为菖蒲根,是一种健胃药。古代也称为“あやめ(花菖蒲)”,叶子虽与菖蒲科的花菖蒲相似,却是完全不同的两种植物。