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黒パン俘虜記1-6

时间: 2018-10-26    进入日语论坛
核心提示:     6 ぼくには毎月十二日、十三日、十四日の三日間は、曜日にかかわらず、通訳の仕事があり、夕食が終ると、正門横の管
(单词翻译:双击或拖选)
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 ぼくには毎月十二日、十三日、十四日の三日間は、曜日にかかわらず、通訳の仕事があり、夕食が終ると、正門横の管理事務所へ一人で出かけた。表面は事務手伝いとなっていた。その内容は決して誰にも語ったことはないが、それはスパイと特務の面会の通訳であった。
 どの収容所にも双方の代表者とは別に、帝国側の管理機構と直接接触している男たちが、十五人ぐらいいた。
 ぼくは補助通訳としてほんの僅かの報酬のためこの両者の立会人になっていた。
 元見習士官の、関西の大学を出たインテリで、スパイになっている男がいた。スパイ名を『煙草《タムヒ》』といった。タムヒの面会日は毎月十二日の八時と決められていた。当人はスパイは自分一人だけと思っているが、実は十二日の分では三人目の面会人であった。六時から始まって十時まで一日五人。三日で十五人である。
 三月十二日のことであった。歩哨《ほしよう》の誰何《すいか》に
「タムヒ」
 と暗号名で答えて、八時にタムヒが入ってきた。中で待っている軍人は一般の将校とは違い、軍帽に赤の蛇腹《じやばら》を巻き、ズボンに赤い筋が入っていた。どんな仕事でも、この帝国は一般軍人と、それを監視する特務軍人との二本立てになっていた。職務上、自分の国の通訳は連れてこなかった。少し日本語ができたので、初歩程度のぼくと話をつき合せると、大体の用が足りた。それでぼくは月のうち三日間は少量だが臨時の収入を得ることができた。
 小屋の隅のペーチカは赤く燃え、鉄板に獣脂をしいて、薄く切った黒パンがのせられている。一人ごとにぼくが約三分の一を予《あらかじ》め切って用意しておくのである。うまそうな匂いをまきちらしている。タムヒの視線が離れない。
「タムヒ、まあ、喰べろ」
 特務は日本語でいう。タムヒは脂でべとつくパンを息もつかずに口にほうりこんでいく。スパイの情報提供の報酬はこれだけだ。その特権を剥奪《はくだつ》されないため、これまであらゆる情報を持ちこんできた。この仕事は、二、三回もやっていると、相手が好んで聞きたがる情報の種類がのみこめてくる。特に喜ばれるのは労働者側の脱走計画である。
 ぼくもこの通訳の報酬は失いたくなかったからこの三日は機械に徹し、どんなことがスパイから語られようと、それに感情を示したり、外に洩《も》らしたりはしなかった。その点、特務からも、スパイ側からも信頼はされていた。
 タムヒが充分喰べたのを見て、特務の中尉はぼくに顎《あご》を振り、ぼくは代りにタムヒに聞いた。
「今月の報告は」
「元民間人で、今は理髪係をやっている男がいるのを知ってるか」
「知ってる。凍傷で足の指を全部切断したので作業免除の理髪係にした」
 司令部付きのこの特務中尉は、十の収容所を三日ずつ巡り歩いて、その中の人員の殆どの動静に通じていた。
「彼は自分の金歯を釘《くぎ》で外し、町の人に売ってパンに取り代えようとしている。余計のパンを持つということは、脱走の準備と考えられるから、警戒すべきである」
 ぼくは機械的に通訳する。だが脱走準備などは全くのつけたりで、他人が余計のパンを持つのが許せないというタムヒの気持はよく分った。特務は職業であるから受け取り方が違う。計画について細かく質問する。仕方なくタムヒはでっち上げる。出鱈目《でたらめ》話は詳細な脱走計画の報告書になる。最後にタムヒは片仮名でサインをして、報告書はでき上る。
「明日から作業量がまた増える。来月の十二日まで脱走計画者が増えると思うので、よく調査しておきなさい」
「はい、承知しました」
 報告が終ると、タムヒを制して特務が小屋を出て中庭を見る。すぐ戻ってきた。
「もう少しペーチカに当っていなさい。小政が仲間を連れて炊事小屋に肉鍋を喰いにいった。今会うと疑われる」
 管理者側の将校は、政権交替に気がつかなかったが、特務側はとっくに知っていた。そして、新作業計画達成の奨励策としてこのごろ全員に特配されるようになった、砂糖・肉・臓物などを独占して連日新幹部たちが、炊事小屋で豪勢な宴会をやっていることも、承知していた。
 ただしこれが、労働力を結集し、作業を進捗《しんちよく》させるのに役だっている限り、摘発しようなどという気持は全くないようだった。
 特務が気を使うのは、十五人のスパイの存在が、小政や、他の労働者にばれて、私刑に会って報告がとぎれることだけだ。
 小政たちが炊事小屋へ入るのを見届けてから、合図をすると、タムヒはすばやく小屋に戻り、十五分ぐらいして、次のスパイ『菓子《ピラミツク》』が入ってきた。
 翌日からたしかにまた定量は強化され、現場での死亡者もかなり多くなった。だが、二万人の消耗無視の労働力はさすがに凄まじいもので、町の建物は目に見えて大きくなっていく。
 四月に入ると、通りに面したビルの煉瓦の壁面には、大きな肖像画やスローガンが一斉に下げられた。
 広場の整理は特にめだった。目障りだったラマ教の赤い柱の寺院は跡形もなく消え、中央に白い台石にのった銅像が据えられた。嘶《いなな》いてまさに立ち上ろうとする馬に、中将の軍服の大統領閣下が、片手に大きい旗を持って乗っていた。
 銅像の正面には、一段高い演説台が、大理石で作られた。回りの柱には、演説を広場の群衆にもれなく聞かせるためのスピーカーが取りつけられ、元ラジオ屋だった経歴の者が各収容所から選抜されて特別の作業に当っていた。
 郊外の荒地からも、遊牧民が、何十年に一度の祭典を見物するため、何日もかけてやってきた。牛車に家と家財道具のすべてを載せてやって来た彼らは、川っぷちに、白いきのこのようなフェルトの天幕を並べた。
 町の大通りは羊を追う人々でごった返した。首都見物でも家畜を置いてくるわけにはいかないからである。
 また十二日から十四日までのスパイの面会日が近くなった。ぼくは機械に徹しようとは思っていても、少し気が重い。作業の強化でさすがに不平が人々の間に拡がる。今では作業中何気なく
「ああ日本に帰りたいなあー」
 と呟《つぶや》いても、すぐ密告の対象になる。十五人のスパイが、黒パンほしさにすみずみまで目を光らせている。今度の面会日の密告量の増加は大変だろう。ところが直前で意外なことが起った。
 タムヒの定例面会日に後二日というときだった。作業を終えた人々が薄い粥をすすり終え灼《や》けつくような空腹を抱えたまま、疲労の果てに眠りに就こうとしたとき、着剣した五、六人の歩哨に身辺を警戒させて、特務の将校が入ってきて、中央で突然話しだした。
「起きて皆、聞きなさい」
 このぐらいの日本語は特務もできる。赤い蛇腹に、赤い線のズボンの将校は、権力があり残忍であると皆は知っているから、宿舎の隅まで凍りついたようになった。小政以下三十人の幹部も毛布のおおいのかげで、息をひそめて顔を出さなかった。この赤線《ゲ・ペ・ウ》に睨《にら》まれたら、小政のかりそめの権力など一溜《ひとたま》りもないことを当人も知っていた。
 特務はポケットから紙を出して、名前を読み出した。大半は体の弱い作業能率の低い者で、スパイたちが頻繁に報告する脱走計画予定者だったが、その中にスパイの名も五人ばかり交っていた。ぼくにはその理由がすぐ分った。お互いにスパイの仲間と知らずに、他のスパイの者を報告することがある。皆その該当者だ。タムヒの名も入っていて、びっくりしたタムヒが訴えるように特務の将校を見たが、中尉はまるで初めて見る人間のようにタムヒを見返しただけだった。
 二十人近い人間は、すぐ歩哨に銃剣を突きつけられて表へ連れ出された。
 五月一日が終った後、そのうち十人ぐらいが骸骨《がいこつ》のようになって戻ってきたので、皆が取り囲んで事情を詳しく聞いた。以下はそうして明らかにされた懲戒作業の実態である。
 二十人はすぐ表へ連れ出されて、石炭の置場にされていた小屋に入れられた。二人の歩哨が専任で警戒についた。
 毛布も着換えも私物も宿舎に置いてきて、ここでは石炭の上に体一つのごろ寝で、寒さでとても眠れなかった。翌日から、二人の歩哨がつきっきりで、彼らを追いたてる作業が始まった。
 作業場は、町からかなり離れた川原であった。上流から送られてきた松の木のいかだが沢山つながれて浮いていた。
 針金で結んであるいかだをほぐすことから作業が始まった。鋏《はさみ》も、|やっとこ《ヽヽヽヽ》もない。川原から平たい薄い石を拾ってきて、木と木の間にさしこみ、もう一つやや角のある石で、その上を気長に叩く、針金が熱をもってきて切れる。その瞬間ふわりと水に浮いて材木が流れるので横にいて押えて、大きい針金の輪を通して、四人で棍棒《こんぼう》をかけて岸に運び上げる。雪どけ水は冷たく、川の底の石が丸くても足の裏に喰いこむほどに痛い。
 それに浮いた瞬間の材木にぶつからないよう、手もとがやりにくくても横で作業しなくては危険だった。
 タムヒは口惜しさと疲労でその余裕がなかったらしい。危険と分っていながら、川下で正面から針金を切っていたそうだ。切れた瞬間、意外に早い川の流れにのって、木が彼の腹にぶつかり、のけぞる胸と顎の骨を打った。そしてむき出しの首から顎、鼻にかけて、舌が反転するように皮膚をそいだ。
 材木はみるまに川の中ほどに流れ、皮一枚はがれたタムヒは、一度は川の中で立ち上ったが、すぐまた流れに足を取られて、血の帯をひきながら流されていった。
 それを終始見守っていた話し手の、元理髪係の老人は、聞いている皆にそのときの気持を
「助けようなんて誰も思いもしなかったですよ。それよりこんなに腹のすいている人間でも、まだ怪我すりゃ、血が出てくるのが、何とも不思議な気分だったですよ」
 と伝えた。
 材木を一本流失した歩哨はそれだけが心配で、いつまでも喚《わめ》きたてついには泣きだしてしまったそうだ。
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