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黒パン俘虜記5-3

时间: 2018-10-26    进入日语论坛
核心提示:     3 糧秣車が来て水が配られ、パンがまた十三本ずつ渡されて、夕食が始まった。 これでもうあの窮屈なトラックに押し
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 糧秣車が来て水が配られ、パンがまた十三本ずつ渡されて、夕食が始まった。
 これでもうあの窮屈なトラックに押し上げられての、立ったままの苦しい旅行も終ったかと思うと、気分的にもかなり楽になった。
 四分の一の黒パンを、その男は水を口に含んでは、ぺちゃっと舌を鳴らしてなめるようにして喰べていた。突然いった。
「わいの名は山本鹿之介いうでの。覚え易いやろ」
「ええ、何だか聞いたことがある名ですが」
 そう答えながら実はぼくはこの男のことを少し迷惑に思っていた。ときどき見る目付きに不気味な光りがある。もう三十歳はすぎているようだ。俘虜の仲間では老人に属する。軍人の恰好だから、一旦除隊して召集で来た、軍隊言葉で『予備さん』という部類の人間だ。
 階級とは別に、現役兵は予備さんには一応の敬意を表した言葉遣いをしなければならない慣習が軍にはある。今さらそれがわずらわしかった。
 果して食事が終ってから、彼は少しからんできた。
「おまえが正宗の刀のことで、小政に睨まれたと思ったら、次の日急にいなくなった。特務《ゲー》と取引してうまく逃げ出したという噂がたってからのう、急に皆の間に、あの収容所から出よう、どこへでもいいから、小政の支配下だけは逃げ出そうという気持が湧き起ってきてのう。皆がおまえを羨ましがっていたぞい」
「そんなことがあったのですか」
 とぼけて答えるよりほかない。
 病院で得意になって紙芝居の公演をしていたときも、後から入院してきた顔見知りの仲間に、そんな噂をちらっと聞いたことがあった。
「わいもその口よ。何としても|あこ《ヽヽ》を出たくなっての、作業中足先を水に濡らしてから寒風にさらし、わざと凍傷になったのぞい」
 別に見せてくれともいわないのに、明るい焚火に向けて靴を脱ぎ、靴下の代りのボロ布をほどいて、怖しい足を見せつけられた。
 丁度紙のはげた団扇《うちわ》のように、足の指が五本骨だけになって、肉から白く突き出していた。
「運がなかったでの、足を切るまでには至らんかった。指の回りの肉だけそいだら、ほいで手術は終りよ。二カ月も病院に寝ておれんかったでの。作業場にすぐ戻された。吉村隊かと覚悟しておったら、また小政の隊でのう」
 二人のパンはとっくに無くなっていた。夜の闇が徐々に濃くなる。このまま野宿だ。
 明日の朝の国境線通過まで、もう俘虜たちには、何もすることはない。手頃な場所を見つけ外套や毛布をひっかぶり、中に足まで入るように体を丸めて眠りだした。
「わいは実は地方《しやば》でも小政を知っておってのう。それがよけいいかんかった。会った所が警察のブタ箱で、二度目が陸軍刑務所でのう。わいの地方での商売をおまえ何だと思う」
 その目付きの鋭いところから見ても、やくざ関係かと思ったが、口には出さなかった。
「ぬすっとよ」
 彼はさらりといった。
「小政は兵庫、わいは岡山、隣りの県だ。どちらも警察の睨まれもんでの、ほいでお互いによう知っとった。わいの生れた所は、有名な山中鹿之助が生れた町での、親父がわいにも同じ名をつけてくれたぞい。苗字はちいと違ってるが、先祖に負けん大物になると思っておったらしいの。山中鹿之助ちゅう名を知っとるか」
 丁度具合よく、空のはしに三日月が見えていた。彼はぼくの返事もきかずに三日月を指さしていった。
「本まもんの山中鹿之助は、三日月を信仰しておっての、三日月が出ると、それに向って、『我に七難八苦をあたえたまえ』と祈ったそうよの、ほいでわいも一たん受けた恨みは生涯忘れん執念深い性質に育ったんじゃぞい」
 言葉の意味はつながらないが、いわんとするところは何となく納得できる。
「わいは只の男やないでの。今夜こそ、受けた恨みを返してやるぞい。丁度いい所で、おまえにあった。紙芝居屋なら、後世にわいのやったこと語り伝えてもらうのにも好適じゃでの」
「一体あんた、これから何するつもりです」
 こんな話は早く終って、ぼくは火の傍で外套をひっかぶって眠りたかった。だが丁度良い話し相手を見つけたと思ったのか、この目付きの悪い、もと泥棒はぼくを寝かせてくれない。
「まあーそれをいう前に、もう一つ見てもらいたいもんがあるけんのう」
 靴はもうはいてしまっていたが、今度は代りに、軍帽を脱いで頭をつき出した。毛がぐるりと丸く、環状線状に切れて禿《は》げている。
「この右側の禿げた輪の真中へんを、そっと押してみい。そっとやで、あんまり強く押すと、わいは気絶してしまうでの」
 変なことをいう男だなと思いながら、ぼくは頭頂の右側の丸く禿げた輪の真中へんを、注意してそっと押した。掌ぐらいの大きさの平らな骨が、ふわりと陥没した。驚いて手を離した。かなり気をつけたつもりでも
「うーっ」
 と呻いて、彼の顔面が歪み紅潮した。よほど痛かったらしい。
「どうしたんです」
「頭蓋《ずがい》がそこだけ割れて浮いてるでの。蒙古共和国の病院じゃ手術でけん。一度頭の皮剥がして調べたらしいが、つなげられんと分って、いじりまわすより、そのまま蓋してしもうた方がいいということで、何もせんで皮をかぶせてもうたでの」
「帽子をかぶると骨に当って痛くないですか」
 さすがに気の毒になってきくと、戦闘軍帽の内側を見せた。薄いボール紙がはめこんであって、外の小さな衝撃を防ぐようになっていた。
「頭の鉢が脳味噌守ってくれんでの、ボール紙に守ってもらって直接にはひびかんようにしてある」
 その紙は薬箱を切ったもので、ぼくが病院で裏に紙芝居の絵を書いてもらったものと同じだった。どこを探しても、余分な紙一つ入らない砂漠の中の国だから、出所は同じ医務室で、当然なことであったが、ひどく懐かしい思いがした。
 彼は再び帽子をそろりと頭にのせるといった。
「わいが恨みを晴らすというのは、この傷のことでのう」
 これでは先に一人で眠るわけにはいかない。ぼくは話し終るまでつき合おうと覚悟をきめた。どうせもうきびしい定量の作業はない。少しぐらいの睡眠不足でも体はもつ。
「親からわいは立派な名前と、丈夫な体をもらったでの。心は悪事でねじくれても、せめて五体満足で、両親の所に戻りたかったぞい。それがこんな中途半端な体になってもうての、本当はこの恨みさえ晴らせたら、もう生きて帰るなんて気持はないでの」
 ぼくはあわてていった。
「敵討ちなんて、もうどうでもいいではないですか。このさい生きて日本へ帰ることが大事ですよ。かあちゃんいないんですか。帰ったら抱けるんですよ」
「かかあも子供もおらんでの、それに帰ったところで、このカチ割れた頭では、そう長くは生きておれんわい」
「そんなことありませんよ。いい医者に見せれば、もう一度開いて、割れた蓋をくっつけてくれますよ」
「しかし内地へ戻れば奴をもう殺せなくなるぞい」
「誰にやられたんですか」
「小政よ」
 憎々しげに目を光らせた。
「……わいが甘かった。また小政の収容所へ戻されたとき、わいはやつの部屋へ行っての、骨だけの足の指を見せていうたんよ。『外の作業休ませて何か室内でできる仕事をやらせてくれんかの』とな。そしたら小政のやつ、笑いやがって『てめえを室内の仕事で残したら、もとがもとだ。中の兵隊の荷物が根こそぎ盗まれちまう』っての」
 口惜しそうに唇をかんだ。目がまた鋭く光った。
「いくら昔のブタ箱仲間でも、いってよいことと悪いこととあるでの。こんなに皆が窮乏して苦しんでいる境遇の中で、同じ捕虜仲間から、わいは盗みなどせんぞい。小政のやつにわいは思いきっていってやったでの。『仲間のパンをピンハネしてヌクヌクしているてめえらとは違うで』っての。それをきくと小政は、『なにい』と目をつりあげると、丸太ン棒を振り上げて、わいの頭を殴りやがった。目が回ってぶっ倒れて、二十日ぐらい気がつかなかったぞい」
 小政やその仲間が、朝、一般の兵士たちを作業に追いだすために振り回す六尺棒を、思い出した。とねりこの木で作ってあるという。つやがあって芯が固い。
 毎朝振り回されるたびに、体の底から恐怖が湧いてきて、体中の神経が冷たく凍えた。
 作業に追いたてられるとき外套の上から尻のあたりを殴られても、四、五日は赤い痕《あと》が消えないぐらいひどく痛い。
 頭をやられたら、生きているほうが不思議なぐらいだ。よほど頑健な体に生れついたのだろう。
「幸いその日病院行きの死体運搬車が来る日だったからよかった。血だらけでまた病院へ逆戻りできてのう。そうでなかったら、そのまま死体の中へ井桁《いげた》に組まれて放置されるところだったぞい。病院でも何日も目をさまさんかったそうでの。頭の皮剥いで、調べて、駄目で、そのまま縫い合せた後で、もうどうせ生き返ることはないのじゃから、このまま墓地へ運んでしまおうという話が何度も出たらしい。そのたびに、竹田ちゅう軍医さんが、『まあ息のあるうちは、病院に寝かせておこう』と皆をなだめてくれて、鼻から砂糖水入れて、生かしてくれたで、やっと生き返ったそうでのう」
「そうですか」
 火の回りの人は、大部分が横になって眠っていた。誰も野宿に馴れている。それを見て山本鹿之介は
「もうおそいの。おまえも寝ろ」
 と急にいった。
「わいはこれから小政の生命《いのち》をもらいに行く。やつの乗った車の番号は分っとるでの。武器はある。病院の入院中に手術室からよく切れるメスを一本かっ払ってきている。これだけが、蒙古共和国でやった、わいのたった一つの仕事での」
 あたりはすっかり暗くなっている。彼は夜の闇にまぎれて小政の乗ってきたトラックまで行くつもりらしい。
 ぼくはいった。
「必ず帰ってきてくれよ。四十九人じゃ、国境を通さないそうだ」
「わいは、みんなに迷惑をかけるようなことは、ようせんでの」
 すっと地面に這ったまま、彼の体は消えてしまった。もと盗《ぬす》っ人《と》を自認するだけあってその消え方は、夜の空気の中にとけてしまったように自然であった。
 警戒の兵も大半は車の中で鉄砲を抱えて居眠りしている。ここまで来ては、もう逃げ出す馬鹿はないと思って安心しきっている。
 どこの焚火も消えかかっていて、細い月の光りでは、ほんの近くの物しか見えないぐらいの闇夜であった。
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