「お化けを守る会」の平野威馬雄氏から電話がかかってきて、
「あんた、明日大地震があるの知っている?」
といわれてぼくは腰が抜けるほどびっくりした。
大阪のある宗教団体の教主が六月十八日午前八時に、大地震があると予言し、このことが新聞の記事になったことがことの起りなのだ。
あわてたのは、ぼくばかりではない。平野氏から電話があったとき、居合せた数人の編集者や事務所の者たちも、びっくり仰天して、全く仕事が手につかなくなってしまった。
ぼくは早速、ホテルに罐詰《かんづめ》になって仕事をしている柴田錬三郎氏に、
「先生、明日の朝八時に大地震があるそうです。逃げてください」と電話すると、
「ああ、そうですか。私は東京が潰滅《かいめつ》するのをこの目で確かめますヮ」といたって冷静だ。
「ぼくは大阪にでも逃げようかと考えているのですが……」
「あ……?! 本気ですか?」
「もちろん本気ですよ!」
こんな電話をかわしている間に、ついに柴田氏も半ば本気になられてしまった。
ぼくはあちこちと、直感の鋭い人や、この情報の出どこなどに電話して、正しい情報集めに大あわてした。地震の震源地は大阪だとか、静岡だとか、やっぱり東京だとか、いろいろの情報が乱れ飛び、結局どこにも逃げられないまま、この日は終り、いよいよ十八日になった。
夜半過ぎても、あちこちから新しい情報が入り、そのたびに、また柴田氏に電話したりしている間に、ついに朝になり、あと一時間で待望[#「待望」に傍点]の大地震の時間を迎えることになった。
中学一年の長男は食物だけを用意し、四年生の長女は西城秀樹の写真の切抜きを山ほどかかえ、今か、今かとテレビの前で人類滅亡の瞬間を待っている。女房といえば、ばかばかしい騒ぎといわんばかりに寝たきり起きてこない。
結局何も起らずにほっと胸をなでおろしたのだが、当の予言者は責任を感じて自殺を計ったと聞いて、ぼくは再び地震以上にびっくりした。大抵の予言ははずれるのが常識だが、予言がはずれたからといって自殺を計った予言者は初めてではなかろうか。オカルト・ブームでいいかげんな予言が多い中で、ぼくはこの人こそ本物ではないかとふと感じた。悪い予言ははずれた方がいいのであって、ぼくが大あわてしたこの日は、最近の中でも最も充実した一日であった。