[書き下し文]憲(けん)、恥を問う。子曰く、邦(くに)道あれば穀(こく)す。邦道無きときに穀するは恥なり。
[口語訳]原憲(げんけん)が恥について質問をした。先生がお答えになられた。『国家に正しい道理があれば、官吏(役人)になって俸禄(給料)を受け取っても良い。しかし、国家に道徳が行われていない時に、官吏になって俸禄を受け取るのは恥である。』
[解説]『原憲』は、字(あざな)を子思(しし)といい孔子の弟子である。孔子が官吏に求めたエートス(道徳的理性)は経世済民(けいせいさいみん)であり、国家が国民(民衆)を苦しめているような国では、官吏(公務員)となって俸給(給料)を受け取るべきではないと考えた。つまり、儒学の理想とする王道政治では、政治(=為政者・役人)は民衆の幸福と安心のために存在するのであり、民衆が困窮して不幸な立場に置かれているような状況で、既存の政治体制に与する(くみする)ことを潔しとしなかったのである。国家と官吏は国民(人民)の血税で支えられているが、封建制度の慣習によって政治が運営されていた春秋戦国時代には、孔子の人民の生活重視の政治観は異端であった。