[書き下し文]陳に在りて糧を絶つ。従者病みて能く興つ(たつ)こと莫し(なし)。子路慍(いか)って見えて(まみえて)曰く、君子も亦(また)窮すること有るか。子曰く、君子固(もと)より窮す。小人窮すれば斯(ここ)に濫る(みだる)。
[口語訳]陳の国にいる時に糧食が無くなってしまった。孔子の弟子達は病み疲れて立ち上がることもできない。子路が憤激して孔子に拝謁して申し述べた。『君子であっても食に困窮することがあるのでしょうか?』。先生がおっしゃった。『君子でも当然困窮することはある。しかし、小人が困窮すると混乱してしまうものだ。』。
[解説]陳の国に孔子一行が滞在している時に、陳・楚と呉の間に戦乱が起こり孔子たちの元に食糧の供給が無くなってしまった。空腹に耐え切れず弱っていく弟子たちを見た子路は怒りをあらわにして孔子に詰め寄るが、孔子は君子と小人の『困窮した時の対処の違い』を冷静に説いている。儒教では、小人は困窮が極まると自暴自棄になって何をするか分からないが、君子はどのような苦境にあっても冷静に自分の徳性と倫理観を失うことがないと考えている。