[書き下し文]孔子曰く、天下道有れば、則ち礼楽征伐、天子より出ず。天下道なければ、則ち礼楽征伐、諸侯より出ず。諸侯より出ずれば、蓋し(けだし)十世にして失なわざること希(まれ)なり。大夫より出ずれば、五世にして失なわざること希なり。陪臣国命を執れば、三世にして失なわざること希なり。天下道有れば、則ち政は大夫に在らず。天下道あれば、則ち庶人は議せず。
[口語訳]孔子がおっしゃった。『天下に正しい道(政治)が行われていれば、礼楽?征伐を行う実権は天子が持っている。天下に正しい道が行われていなければ、礼楽?征伐を行う権限は諸侯が奪うことになる。諸侯がこの権限を持つ時には、10代後にこの権限を失わないものは稀である。諸侯の大夫がこの権利を持つ時には、5代後にこの権利を失わないものは稀である。諸侯の陪臣が国家の政権を握っている時には、3代後にこの権限を失わないものは稀である。天下に正しい道があれば、大夫が政治の実権を握ることはなく、庶民が政治の議論を戦わすこともない。』
[解説]封建主義的な身分制度を補強するような部分であるが、人には身分や立場によってそれぞれが担うべき役割と責務があるという話であり、孔子は分不相応な越権行為(謀反?叛逆)が繰り返されることによって国が乱れ人民が困窮すると考えていたのである。つまり、孔子の想定する最も正しい政治形態とは、国を治めるべき天命を拝受した天子(君主)に政治の実権が握られている君主政であり、諸侯や家臣が天子の代わりに政治の実権が握られている状態を指して『道が行われていない』と言っているのである。こういった天命思想は、日本で明治維新を実現する原動力となった『王政復古?尊皇攘夷?大政奉還』などの思想?理念にもつながっている。