トラは沖縄の町にやってくると、威張った態度で言いました。
「おれさまは、中国武術の達人だ。中国武術と空手、どちらが強いか勝負だ!」
「・・・・・・」
「どうした。おれさまの中国武術に、恐れをなしたのか?!」
「・・・・・・」
沖縄の動物たちは、今まで見た事がない大きな体のトラを怖がって、誰も勝負をしようとはしません。
「誰も勝負をしないのなら、沖縄をおれさまの物にするぞ!」
その時、一匹の小さなヤマネコが、トラの前に進み出ました。
「いいでしょう。わたしがお相手をしましょう」
このヤマネコは、沖縄空手の先生です。
トラは自分の半分にもみたないヤマネコを見て、ゲラゲラと笑いました。
「がはははは。お前の様なチビ助が、勝負だと? よし、お前なんかひとひねりだ。アチョーー!」
トラがヤマネコに飛びかかりましたが、何とヤマネコはトラの攻撃をヒラリとかわすと、体の大きなトラをコテンパンにやっつけてしまったのです。
「何だと? ・・・まだまだ、これからだ!」
トラは再び勝負を挑みましたが、何度やってもヤマネコにはかないません。
負けを認めたトラは、ヤマネコに両手を合わせてお願いしました。
「先生! どうかわたしに、先生の沖縄空手を教えて下さい!」
「いいでしょう。修行はつらいですが、頑張るのですよ」
こうしてトラはヤマネコに弟子入りを許されて、空手の修行を始めたのです。
空手を始めたトラは、もともと武術の才能があったので、見る見るうちに上達していきました。
一年が過ぎた今では、ヤマネコに次ぐ空手の名人です。
それを知ったヤマネコは、
(このままでは、トラはわたしよりも強くなるだろう。そうなればいつか、わたしを倒して沖縄を支配するかもしれない)
と、思い、数多くある空手の必殺技の一つを教えなかったのです。
ある日の事、ヤマネコの悪い予感が的中して、トラがヤマネコに勝負を挑んできました。
「師匠。おれはお前よりも強くなった。今こそお前を倒して、沖縄を支配してやる!」
「よろしい。わたしはお前を全力で倒し、中国へ送り返してやります」
トラとヤマネコの空手の腕前は互角でしたが、トラはもともと中国武術が使える分有利なので、次第にトラが優勢になりました。
(まずい、このままでは負けてしまう)
そう思ったヤマネコは、トラには教えていない空手の必殺技を使いました。
それは、木登りです。
ヤマネコは身軽に木に登ると、木の上でトラを待ちかまえました。
「なんだ師匠、そんなところに逃げ込んで、もう降参か!」
トラもヤマネコを追いかけて木に登ってきましたが、木登りを教えてもらっていないトラは、木にしがみつくだけで精一杯です。
「すきあり!」
ヤマネコは木にしがみついて動けないトラをコテンパンにやっつけて、中国に追い返してしまいました。
そんなわけでトラは、中国武術も沖縄空手も使えるとても強い動物ですが、ヤマネコに木登りを教えてもらえなかったので、今でも木登りが下手なのだそうです。