それを隣村の人たちに見つかった長八郎は、奉行所へと突き出されたのでした。
長八郎の裁きを担当するのは、名奉行で有名な大岡越前です。
越前が、長八郎に尋ねました。
「これ、長八郎。そなたは隣村のかや山に忍び込んでかやを盗んだというが、それは本当か?」
すると、立ち会いの隣村の者たちが口々に、
「大岡さま、本当です」
「どうか長八郎の首を、ちょん切って下さい」
と、言うのです。
「これ、静かにせい! 今は長八郎に聞いておるのじゃ」
越前はたしなめると、土下座をしたままの長八郎にもう一度尋ねました。
「して、長八朗。そなたがかやを盗んだのは、本当なのだな?」
「はい。確かにおらが、かやを盗みました」
「そうか。しかし、こう言ってはなんだが、もうそなたはもう年だ。調べたところによると、そなたは病を患っており、あと何年も生きられないと聞いておる。そんなお前が、なぜ盗みなどをしたのじゃ?」
すると、隣村の者たちが、また口をはさみました。
「長八郎は、むかしから博打(ばくち)が好きでした。きっと今度も、博打をする金欲しさに違いありません」
「そうです。はやく長八郎の首を、ちょん切って下さい」
越前は、もう一度隣村の者たちを叱りつけました。
「黙れ! 今は長八郎に聞いておると言っているだろう! 口をはさむことは二度と許さん!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
隣村の者たちが黙ると、越前は話を続けました。
「長八郎よ、そなたがばくちをしていた事は知っておる。そして、今ではすっかり足を洗って、真面目に働いている事もな。して、そなたがかやを盗んだのはなぜじゃ?」
「はい、それは、老い先が短いからでございます。実は、わたしには年頃の孫娘がいるのですが、貧乏な為に、嫁入り道具を用意する事も出来ません。それで、悪い事とは知りながら、つい」
「そうか・・・」
越前は、これをどう裁けばよいか悩みました。
長八郎をかばってやりたい気持ちはありますが、盗みは盗みです。
このまま無罪で見逃しては、他の者に示しがつきません。
するとそこへ、心配して駆けつけていた孫娘が飛び出してきて、越前に深々と土下座をして言いました。
「どうか、どうか、じいさまをお助け下さい」
「・・・しかしだな、盗みは盗みだ。かやとはいえ、無罪にするわけには」
「かや山のかやは、いくら切っても春になれば、また新しい芽を出してくれます。ですが人の首は、切られてしまえば、それでお終いです」
それを聞いた越前は、ホンとひざを叩きました。
「うむ、なるほど、確かにそなたの申す通りであるな。かやは切っても取り返しがつくが、人の首は切ってしまうと取り返しがつかない。うむ。長八郎に罪はない事とする。ただし、盗んだ分のかやは、来年にはお前がかや山で刈ってきて、必ず返すようにな」
「はい。ありがとうございます」
こうして長八郎は許されて、翌年には盗んだかやを返したのです。
そして孫娘が嫁いで行くのを、無事に見届けることが出来たのです。
「うむ。これにて、一件落着!」