ウサギはこの角が自慢で、外へ出かける時はいつも角を頭の上に乗せていました。
「えへん。どうだい、この角は。きみたちには、こんな立派な角はないだろう」
ウサギは他の動物に会うと、いつも大いばりです。
ある日の事、いつもの様にウサギが頭に角を乗せて歩いていると、反対側からシカがやってきました。
その頃のシカには、まだ角がなかったのです。
ウサギはさっそく、シカに自慢をしました。
「シカくん、きみはぼくよりも体が大きいが、こんな立派な角はないだろう」
「・・・・・・」
いくら自慢をされても、角のないシカには言い返す事が出来ません。
(いいなあ。ぼくにも、あんな立派な角があったらなあ)
シカは、ウサギがうらやましくなりました。
そこでシカは、ウサギに言いました。
「ほんとうに、立派な角だね。すごいよ。・・・ねえ、ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから、貸しておくれよ」
そう言われると、ウサギはうれしくなりました。
「うーん。大事な角だが、そこまで言うのなら、ちょっとぐらいなら貸してやってもいいかな。はい」
ウサギが頭の角を外してシカに貸してやると、シカはウサギの角をしげしげとながめました。
(いいなあ、いいなあ、ほしいなあ~)
見れば見るほど立派な角なので、シカは角がほしくてほしくてがまんできません。
そこでシカは、ウサギに言いました。
「ああ、なんて素敵な角だろう。ねえ、お願いだから、ぼくにもちょっとかぶらせてくれないか。ほんのちょっと、ちょっとだけでいいんだ」
シカがあんまりうらやましそうに言うので、ウサギはますますうれしくなりました。
「うーん。大事な角だが、ちょっとだけなら、かぶらせてやってもいいかな」
ウサギは角を、シカの頭にかぶらせてやりました。
「どうだい、気分は?」
「うん、いいよ、いいよ! まるで、王さまになった気分だ!」
シカはうれしそうに首をふって、川のふちへ行きました。
そして川にうつる自分の姿を見て、シカはうっとりです。
「ウサギさん、どうだい。ぼくにも角が、似合うとは思わないかい?」
「まあまあだね。だけど、ぼくほどは似合わないよ」
「いいや、この角は、ぼくにぴったりなんだ!」
シカはそう言うと、いきなり川へ飛び込みました。
「あっ、こら!」
びっくりしたウサギはシカに文句を言いましたが、シカは向こう岸へ上がると、あかんべぇーをしながら言いました。
「やーい、返して欲しければ、ここまでおいで」
「なっ、なんだとー!」
でもウサギは泳げないので、向こう岸へ渡る事が出来ません。
「こら、返せ! 返さないと、ひどいぞ!」
ウサギは大声で言いましたが、シカはそのまま山の中へと逃げてしまいました。
「あーん、ぼくの角、ぼくの角が・・・」
それからというもの、ウサギは泣きながら毎日シカを探して回りました。
でもどうしても、あのシカを見つける事は出来ませんでした。
「あーん、ぼくの角、ぼくの角・・・」
ウサギはあんまり泣きすぎたので、目がまっ赤になってしまったという事です。