それはとても邪魔なこぶで、おじいさんがまきを割る度にプルルン、プルルンとふるえます。
でもこのおじいさんは、そんな事はちっとも気にしない、とてものんきなおじいさんでした。
そして同じ村にもう一人、左のほっペたに大きなこぶのあるおじいさんが住んでいました。
こっちのおじいさんは邪魔なこぶが気になってか、いつもイライラと怒ってばかりです。
ある日の事、のんきなおじいさんが森の奥で木を切っていると、いつの間にやら、ポツリ、ポツリと雨が降り出して、やがてザー、ザーと土砂降りになってしまいました。
「いかんいかん。このままでは、風邪をひいてしまう」
おじいさんは大きな木のうろに飛び込んで、雨宿りをしました。
そのうちおじいさんは、ウトウトと眠り込んでしまいました。
やがて雨が止んでも、明るいお月さまが出ても、おじいさんはグーグー、グーグーと高いびきです。
真夜中になりました。
するとどこからか、賑やかなおはやしの音が聞こえて来るではありませんか。
「おや、どこからじゃろ?」
目を覚ましたおじいさんは、その音のする方へ行ってびっくり。
「うひゃーーー! 鬼だーー!」
何と、この森の奥に住む鬼たちが、輪になって歌い踊っていたのです。
♪ピーヒャラ、ドンドン。
♪ピーヒャラ、ドンドン。
赤い鬼、青い鬼、黒い鬼、大きい鬼、小さい鬼。
どの鬼たちも、飲んで踊って歌っての大騒ぎです。
最初は怖がっていたおじいさんも、そのうちに怖さを忘れて踊り出してしまいました。
するとそれに、鬼たちが気づきました。
「これは、うまい踊りじゃ」
「おおっ、人間にしてはたいしたものじゃ」
おじいさんの踊りがあまりにも上手なので、鬼たちもおじいさんと一緒になって踊り始めました。
♪ピーヒャラ、ドンドン。
♪ピーヒャラ、ドンドン。
のんきなおじいさんと陽気な鬼たちは、時が経つのも忘れて踊り続けました。
そのうちに、東の空が明るくなってきました。
もう、夜明けです。
「コケコッコーー!」
「ややっ、一番鳥が鳴いたぞ」
朝になると、鬼たちは自分たちの住みかに帰らなくてはなりません。
「おい、じいさんよ。
今夜も、踊りに来いよ。
それまでこのこぶを、預かっておくからな。
今夜来たら、返してやろう。
・・・えい!」
そう言って鬼の親分は、おじいさんのこぶをもぎ取ってしまいました。
こぶを取られたおじいさんは、思わずほっペたをなでました。
「おおっ、こぶがない」
傷も痛みもなく、おじいさんのこぶはきれいに無くなっていたのです。
こぶがなくなったおじいさんが村へ帰ると、もう一人のこぶのおじいさんがびっくりして言いました。
「おい! こぶはどうした?! どうやって、こぶを取ったんだ!?」
「ああ、実はな・・・」
こぶのなくなったおじいさんは、夕べの事を話して聞かせました。
「何! 鬼が取ってくれただと」
こっちのおじいさんは、うらやましくてなりません。
「よし! それらなわしも、鬼にこぶを取ってもらおう。踊りには、自信があるんじゃ」
もう一人のおじいさんは、夜になると森の奥へ出かけて行きました。
しばらくすると、おはやしの音が聞こえてきます。
♪ピーヒャラ、ドンドン。
♪ピーヒャラ、ドンドン。
「よし、あそこで踊れば、こぶを取ってもらえるのだな」
おじいさんは踊っている鬼たちのところへ行こうとしましたが、でも鬼の怖い顔を見た途端、足が震えて歩けなくなりました。
「こっ、怖いな~」
でも、頑張って鬼たちの前で踊らないと、こぶは取ってもらえません。
「ええい、こぶを取るためだ!」
おじいさんは思い切って、鬼たちの前に飛び出しました。
すると鬼たちは、おじいさんを見て大喜びです。
「よっ、待ってました!」
「じいさん、今夜も楽しい踊りを頼むぞ!」
でも、鬼が怖くてぶるぶる震えているおじいさんに、楽しい踊りが踊れるはずはありません。
「何だ、あの踊りは?!」
「昨日の踊りとは、全然違うぞ!?」
おじいさんの下手な踊りに、鬼たちはだんだん機嫌が悪くなって来ました。
そして怒った鬼の親分が、おじいさんに言いました。
「ええい、下手くそ! 約束通りにこれを返してやるから、二度と来るな!」
ペターン!
鬼の親分は昨日もぎ取ったこぶを、もう一人のおじいさんの右のほっぺたにくっつけてしまいました。
こうして、右と左にこぶが二つになってしまったおじいさんは、泣きながら村に帰って行きました。