娘はみんなに可愛がられて育ちましたが、でも新しいお母さんがやって来てから娘の運命が変わりました。
新しいお母さんにはみにくい娘がいた為、自分の娘よりもはるかにきれいな娘が憎かったのです。
そこで新しいお母さんは、美しい娘を毎日いじめました。
お父さんはその事を知っていましたが、せっかく来てくれた新しいお母さんには何も言いませんでした。
そして新しいお母さんに言われるままに、お父さんは娘に家を出て行けと言ったのです。
娘が家を出て行く日、新しいお母さんもお父さんも、娘が家を出て行くのを見送ろうともしませんでした。
でもただ一人、最後まで娘に優しかった乳母だけが娘を見送り、目に涙をためながら出て行く娘に言いました。
「お嬢さま。
あなたさまは、とても器量よしです。
その為に、この様な事になりました。
そしてこんな事は、世に出てからも続くでしょう。
そこで用心の為に、これをかぶって行きなさい。
あなたさまの事を、心からお守りくださるお人が現れるまでは」
そして乳母は姥っ皮(うばっかわ)と言って、年を取ったおばあさんになるための作り物の皮をくれたのです。
娘はそれを被って年寄りのおばあさんに化けると、その姿で家を出ました。
年寄りの姿になった娘は、ある大商人の家の水くみ女に雇われました。
娘はいつも姥っ皮を被って働き、お風呂も一番最後に入ったので、誰にも姥っ皮を脱いだ姿は見られませんでした。
そんなある晩の事、娘がいつもの様に姥っ皮を脱いでお風呂に入っているところを、散歩に出かけていたこの家の若旦那が見つけてしまったのです。
「何と、美しい娘なんだ」
若旦那は娘に声をかけようとして、思い止まりました。
「いや、よほどの事情があって、あの様な皮を被っているのだろう。今は、そっとしておいてやろう」
若旦那はその場を立ち去ったのですが、娘に一目惚れした若旦那は、それ以来食事が喉を通らず、とうとう病気になってしまったのです。
何人もの医者に診てもらいましたが、若旦那の病気は全然治りません。
そこで心配した父親の大旦那が有名な占い師を連れて来て、若旦那の病気を占ってもらいました。
すると占い師は、にっこり笑い、
「これは、恋の病ですな。
このお屋敷には、多くの若い女中がいます。
おそらく若旦那は、その女中の誰かを好きになったのでしょう。
その娘を嫁にすれば、この病気はすぐに治ってしまいます」
と、言うのです。
「何と、息子は恋の病であったか。それはちょうど良い、息子にはそろそろ嫁を迎えねばと思っていたところだ」
そこで大旦那は家中の女中に命じて、一人一人若旦那の部屋に行かせてみました。
大旦那は隣の部屋から細くふすまを開けて若旦那の様子を見ていましたが、しかし若旦那はどの女中が来ても何の興味も示しません。
大旦那は首を傾げると、
「はて? これでこの家の女は全てのはずだが。・・・いや、もう一人いるが、あれは水汲みのばあさんだし」
と、思いつつも、念には念を入れて、大旦那は水汲みばあさんを若旦那の部屋に連れて行きました。
すると若旦那は布団から起き上がって、水汲みばあさんにこう言ったのです。
「どの様な事情でその様な姿をしているのかは分かりませんが、もしよければ、わたしの妻になっていただけませんか?」
すると娘はこくりと頷いて、姥っ皮を脱いで美しい娘の姿を見せたのです。
それをふすまのすき間からのぞいていた大旦那は、大喜びです。
こうして姥っ皮を脱いだ娘はこの家の嫁となって、いつまでも幸せに暮らしたという事です。