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切れない紙

时间: 2016-12-17    进入日语论坛
核心提示: むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。 ある日、彦一と庄屋(しょうや)さんが、茶店の前にさ
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 むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
 
 ある日、彦一と庄屋(しょうや)さんが、茶店の前にさしかかると、
「ワハハハハッ。
 ええか、よく聞けよ。
 向こうは十五人で、こっちはわし一人。
 向こうも強かったが、わしはもっと強かった。
 右に左にバッタバッタときりすて、あっという間にみんなやっつけてしまったわ。
 ワハハハハハハッ。
 うん? 酒がねえな。
 おい、ばばあ! 酒だ、酒持ってこい」
と、ぶしょうひげを生やした身なりの悪い浪人(ろうにん)が、酒をあおりながら得意になってしゃべりまくっています。
 すると、茶店にいた旅人が教えてくれました。
「ああやって、みんなをおどかしてはただの酒を飲み歩いている、たちの悪い浪人ですぜ。強そうなので誰も知らん顔しているが、誰かとっちめてくれねえかね」
 確かにみんな怖がって、浪人と目を合わそうともしません。
「やい、ばばあ! 酒はどうした!
 ・・・なにい、お金だと。
 ぶ、ぶれい者め! このおれさまから、金をとろうとぬかすのか。
 おもしれえ、とれるものならとってみろ!」
 浪人は茶店のおばあさんをつきとばすと、勝手に店の酒を飲みはじめました。
 たまりかねた庄屋さんが何か言おうとした時、それより早く彦一が浪人の前へ出ました。
「もしもし、おさむらいさん」
「なんじゃ、お前は。小僧のくせにひっこんでろ!」
「あんたは、本当にさむらいですか?」
「な、なに? ぶ、ぶ、ぶしにむかって! ぶ、ぶ、ぶ、ぶれいなやつ!」
「そう、『ぶ、ぶ、』言わないでくださいよ。つばが飛んでくるじゃありませんか」
「こ、こ、こやつ、ますますもって、ぶ、ぶ、ぶ、ぶれいな!」
「ほら、また飛んできた。ところで本当に強いんですか? そんな自慢するほど」
「なっ、つ、つ、強いに、決まっているだろう!」
「そんなに強いなら、これが切れますか?」
 彦一はそう言うと、ふところから一枚の紙を取り出して、浪人の目の前に広げました。
 浪人は、ひたいに青すじを立てて怒ります。
「ば、ば、ばかにするな! た、た、たかが紙きれ、一刀のもとだ。そうじゃ、ついでにお前も、まっぷたつにしてやるぞ。かくごはよいか!」
 浪人は酒の入った茶わんを放り投げると、ギラリと刀を抜きました。
「わあーっ、抜いたぞ!」
 見ていた旅人たちが、さあっと、あとずさりしました。
「彦一、ここはわしにまかせて、逃げた方がいいぞ」
 庄屋さんが言いましたが、しかし彦一は落ち着いたものです。
「では、こうしましょう。あなたがこの紙を切ったなら、あなたがここで飲み食いしたお金をわたしたちが払います。でももし切れなかったら、自分で払ってくださいよ」
「おう、そりゃおもしれえ」
「ちゃんと、約束してくれますか」
「くどい! ぶしに二言はないわ!」
 するとそこへ、ちょうど通りかかった立派な武士が二人に声をかけました。
「せっしゃが、立合人になってしんぜる。もし約束をたがえたら、せっしゃが相手になってつかわそう。さあ、両人とも用意をいたせ」
「さあ小僧! 紙をどこへでも置け!」
 浪人はニタニタ笑いながら、刀を高くふり上げました。
 すると彦一は、近くの大きな石の上に紙を広げて言いました。
「さあ、まっぷたつに、どうぞ」
「う、・・・」
 浪人は刀をふり上げたまま、目を白黒させました。
「さあさあ、早くじまんの腕前を見せてください」
「ううむ・・・」
 いくら剣術の名人でも、石の上に広げた紙を切るのは至難の業(しなんのわざ→とても難しいこと)です。
「さあ、遠慮せずにどうぞ」
「ううむ・・・」
 動かない浪人に、立合人の侍が自分の刀に手をかけて言いました。
「どうした、そこの浪人。約束通り、紙を切ってみよ。なにをグズグズしておるか」
「む、むむむ」
「切れぬか。しからば飲み食いした金を払い、ここを立ちされ。でないと、立会人のせっしゃが相手いたす。覚悟はよいか!」
「お、お待ちくだされ。払う、払いますから、ですからどうぞ、ご、ごかんべんを」
 さっきまでのからいばりはどこへやら、浪人は大あわてで金を払って逃げてしまいました。
 侍は彦一の方に向き直ると、彦一に言いました。
「お主、なかなか大した勇気の持ち主だな」
「いえ、それほどでも」
「だが、もしあの浪人が紙を切っていたらどうする?」
「大丈夫です。いくらがんばっても、あの浪人の酒に酔った腕では紙は切れませんよ。もっともあなたなら酒に酔っていても、見事に紙をまっぷたつにするでしょうが」
「なるほど、お主は勇気だけでなく、大した知恵と眼力を持っておる」
 侍をはじめ大勢の見物人は、あらためて彦一に感心しました。
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