室の八島に詣す。同行曾良が曰く、「此神は木の花さくや姫の神と申て富士一躰(いったい)也。無戸室(うつむろ)に入りて焼給ふちかひのみ中に、火々出身のみこと生れ給ひしより室の八島と申。又煙を読習し侍もこの謂也」。将(はた)、このしろといふ魚を禁ず。縁起の旨、世に伝ふ事も侍し。
現代語訳
室の八島と呼ばれる神社に参詣する。旅の同行者、曾良が言うには、「ここに祭られている神は木の花さくや姫の神といって、富士の浅間神社で祭られているのと同じご神体です。
木の花さくや姫が身の潔白を証しするために入り口を塞いだ産室にこもり、炎が燃え上がる中で火々出身のみことをご出産されました。それによりこの場所を室の八島といいます。
また、室の八島を歌に詠むときは必ず「煙」を詠み込むきまりですが、それもこのいわれによるのです。
また、この土地では「このしろ」という魚を食べることを禁じているが、それも木の花さくや姫の神に関係したことだそうで、そういった神社の由来はよく世の中に知られている。